陰陽の華嫁
□拾捌
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障子の向こう。
羽を休めた、幾羽の雀の
日輪を知らす小さな鳴き声。
鼓膜を愛でる音色に乗せ、紡がれた穏やかな呼び声に
萬月は、額に滲む水滴をそのままに
目を覚ましたばかりの声音を返した。
「光、代……」
「魘(ウナ)されていたけれど…大丈夫か?」
「……平気だ。気にするな」
はら、り
桜の彩の絹布から覗く、右側だけ下ろされた夜色の前髪が
揺れる。
畳の上
正しく膝を折り、不安気に己を見つめる許婚。
女郎花の彩の着物に揃えられた、掌
徐に
、伸ばす…指先。
重ね合わせた箇所から伝わる筈の温度は
少年の手を、僅かな隙間も無く覆う純白の包帯に
阻まれ…。
−−滲まぬ、温度
脳裏に
蘇る
暗黒の…水面
沈み逝く少年の
、微笑み
「−−、ッ」
グッ…!――
「!、ぅあっ」
背筋を駆けた氷塊の冷たさ。
左胸を、鋭利な刃物で刺す衝動に突き動かされるまま
萬月は光代の腕を掴み、勢い良く自身へと引き寄せると
寝具へ組み敷いた。
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