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□†040:指輪
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 洞窟から出てきた女の金髪が、太陽の光を弾いて輝く。薄闇に慣れてしまった目にはその日差しは些かしみて、目を庇うように手を翳す、そんな動作さえ絵になる程の美貌の持ち主だった。
 紅の引かれた唇が、濡れた吐息を洩らす。幸いだったのは、彼女の周りに男は一人もいなかったことだろう。
 俯き加減に、ただ溜め息をつくだけ。
 そんなありふれた光景ですら、その背後に薔薇を幻視する男達は数多いるだろう。

「…無駄足、でしたわねぇ」

 鬱陶しげにウェーブのかかった金髪を払い除け、リヤナは街へと続く足場の悪い道を、ヒールの高い靴で危なげなく歩き出す。そこら辺に転がっている小さな土の塊など、足を取られて転ぶどろこか、ヒールの先で踏み潰している。
 ハイヒールが凶器になるという、いい証拠であった。

「まさか、先に番人の剣を持ち去られるなんて。私の他にも『王者の心』を捜し求めている者がいる事は承知していましたけれど…」

 洞窟に潜って汚れてしまった己の姿を見て、また溜め息。
 本来ならば絹糸のような滑らかさと宝石のような光沢を持っているはずの金髪も、今は土埃を絡ませてかつての栄光の面影もない。全体的に土の匂いを纏っているようで、リヤナの機嫌は悪いものになっていくばかりだ。

「持ち去ったのなら持ち去ったで、何かしらの告知をしておくべきでしょう?情報屋にその旨を伝えておくとか、いくらでも方法があるはずですわ。それが、『王者の心』を追い求める者の心得というものです」

 リヤナの文句は途切れない。
 その場に、彼女の言を肯定する者も、宥める者もいなかったのは、幸いといえるだろうか。どちらの側に立とうとも、八つ当たりをくらうのは必須だった。
 木と草と空と大地だけが聞いている、麗しの唇から洩れる罵倒の言葉の数々は、街になる情報屋の主に最終的に向けられる結果となるのであった。


***


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