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□†013:南にある街
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 室内は、異様な熱気に満たされていた。
 薄暗い、お世辞にもバーとは称すことの出来ない粗末な造りの酒場は、手狭な印象を受ける。まだ夜も更けぬ時間帯から酒を飲み交わしている人口密度の所為で、体格のいい男から褐色の肌を曝け出す女と、その場にいる人間達は各々年も性別も格好も違うが、ただ一つだけ、共通しているものがあった。
 この酒場に集まる彼等が皆、秘宝、『王者の心』を捜し求めるトレジャーハンターだということだ。それは、ここがそういう者達の為の情報交換の場であり、何よりも彼等が何処かしらに身に付けている装飾品から容易に知れた。
 ダイヤモンドを模した、硝子の装飾品。
 数ある宝石の中で王と謳われる、その模造品。
 それは皮肉だ。『王者の心』を求めるトレジャーハンターを、本当に存在するかどうかもわからない秘宝をひたすらに探し求めるその滑稽さを嘲笑ったもの。
 しかし、そんな世間の評価など何処吹く風のトレジャーハンター達の、特に男の視線を一身に集めるその金色の髪は、軽く払われた手に揺れた。たったそれだけで、室内を漂う酒臭い空気が一瞬にして芳醇な花の香りに満たされたような幻想を魅せる。

「…退屈ですわ」

 バーのカウンターに浅く腰掛けたリヤナの、紅の引かれた薄い唇から重い溜め息が漏れる。向けられる男達の熱烈な視線になど気付いていない様子で、酒の注がれたグラスを揺らす。小さなグラスに閉じ込められたコバルトブルーの海を映し込んだかのような瞳は、酔いが回っている所為か何処か焦点が合っていなかった。
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