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□1:旅立ちの日
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「爺さん、もう限界じゃな…」

「そうじゃな…これを逃したらこの先チャンスはなかろう…
仕方がない。
あいつには、今夜、話すことにしよう。」

「じゃが…大丈夫かいのう…
あの子はあんなに何も出来ん子なのに…」

「これも、この村の掟じゃからな…
機は熟したということじゃ…かなり遅かったが…」

老女は、しわがれ目にたまった涙をそっと拭った。



「ディヴィッドや…ちょっと話があるんじゃが…」

「なんだい、父さん。」

老人は、小さなテーブルを挟んでディヴィッドの前に座ると、俯き加減に話を始めた。
話を聞くディヴィッドの顔色がみるみるうちに変わっていく…



「な、な、なんだって〜!!」

ディヴィッドは素っ頓狂な声をあげた。



「村の掟は、昔からおまえも知ってるだろう?」

「ああ、知ってるさ。
この村に生まれた男子は、一年以上一人旅をして来なくてはならない…そんなこと、ガキの頃から知ってるさ。
たいていの者は十代半ばで旅に出る…
だけど、旅に出ようとする俺を父さんと母さんがいつも必死になって引き止めた…」

「そうじゃ。
おまえはわしらが40を過ぎてからやっと授かった待望の子供じゃった。
だから、わしらはおまえのことが可愛くて可愛くて…とてもじゃないが、見知らぬ土地に一年間も…ましてや一人で行かせることがどうしても出来んかったんじゃ。
じゃが、そんなことをしているうちに年月は流れ、気が付けばわしらは老いぼれおまえも来年40ではないか。
旅に行ってないものは嫁をもらうことさえ許されてはおらん。
このままでは、わしらは孫の顔を見ることもなく死んでしまうのではないか…」

「だろうな。
第一、こんな俺の嫁さんになりたいなんて奴はまぁいないだろうからな!」

ディヴィッドは、額と頭の境目が無くなった頭をぺちぺちと叩きながら笑っている。



「おまえと言う奴は楽天家なのか、自虐的なのか…
しかも、わしらはおまえの育て方を間違ったようじゃ。
おまえが可愛いばっかりに好き勝手させて来たおかげで、おまえはいまだにニート…
我が家は最初はこんな貧乏じゃなかったのに、家財もすべて失った。
それだけじゃない。
おまえは朝から晩まで食べるか酒を飲むかしかしておらん。
そのせいで、そんなたぬきのような腹になりおって…
確か、血圧も高いそうじゃな。
小さい頃はわしに似てけっこう可愛かったのに、もはやボロボロではないか。」

「よくもそんな酷いことを言うなぁ…
世の中には太ってる方が好きって女もいるんだ。
きっと大丈夫さ。」

「だからさっきも言うたじゃろ!
嫁をもらう前に、旅に行くのじゃ!」

「なんで、こんな暑い季節なんだよ。
デブは暑い季節は苦手なの!」

そう言うディヴィッドの顔は確かに大量の汗にまみれていた…

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