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□6:焚き火
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(ずいぶん暗くなって来たな。
今夜はこのあたりで休むとするか…)

ディヴィッドは枯れ枝を集め、その場で火を起こした。



(あぁ、やっぱ、火があると落ちつくな…
このあたりは、動物も魔物もいないようだが、真っ暗っていうのはどうも不気味でいけねぇ。)

そんなことを考えながら、ディヴィッドは焚き火でわかした食後のお茶をすする。
あたりは漆黒の闇で、時折、さやさやと木の葉のこすれる音や遠くでふくろうの鳴く声が聞こえるだけ。
その時、不意に近くで物音が聞こえた。
ディヴィッドは周囲に目を凝らす…



(あっ…!)

ディヴィッドは、茂みの中にきらきら光る二つの目を発見した。



「だ、だ、誰だ!!
強盗だったら無駄だぞ!
俺は、金なんか持ってないんだからな!」

光る目は何も答えず、そのままその場から動こうともしない。



「こ、こらっ!聞いてないのか!」

それでも、光る目は動く気配がない。
ディヴィッドは意を決し、茂みの傍に歩み寄った。
ディヴィッドが木切れを拾い、それで茂みをつついてみると、そこから小さな何者かが飛び出した。



「わっっ!」

焚き火の火に照らされ、その者の姿が明らかになった。



「猿じゃないか!」

そこにいたのは、小さな猿…
しかし、どこかが違う。
サルにしては耳がうさぎのように長い。



「変わった猿だなぁ…」

ディヴィッドは、まじまじと猿をみつめた。
猿は、ディヴィッドに警戒はしてるようだが、逃げるような素振りもなく、一心にディヴィッドのことをみつめている。



「なんだ、おまえ、洋服まで着て…
そうか、誰かに飼われてるんだな。
おまえのご主人さまはどこに行ったんだ?」

赤いワンピースのようなものを着こんだ変わった猿は、まるでディヴィッドの言葉に答えるかのように、首を振った。



「面白い奴だなぁ…
しかし、このあたりには人はいなさそうだし、もしかしたら、おまえ、飼い主とはぐれたのか?」

今度は、うんうんと頷く動作を見せた。



「こいつは驚いた。
この猿、相当、頭が良い奴なのかもしれないな。
おい、おまえ、名前はなんて言うんだ?」

猿は、小首をかしげ固まっていた。



「そうか、さすがに名前は無理だな。
ところで、おまえ、腹は減ってないのか?」

猿は、両手を合わせ、掌を上に向けた。



「そうかそうか、腹が減ってるんだな。
ちょっと待てよ。」

ディヴィッドは袋の中からりんごと木の実を取りだし、サルに与えた。
猿は、早速それらを口に運ぶ。



「まだあるから、欲しかったらやるからな。」

可愛らしい猿の食事風景に、ディヴィッドは目を細める。

その晩、変わった猿はディヴィッドに寄り沿って眠った…


「7:忘れられた呪文」

 

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