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□7:忘れられた呪文
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「今度こそ、絶対に負けないわ!」

そう言って、少女は拳を高く握り締めた。
そのまま、部屋の中央に歩み出ると、両手を組み、精神を集中し、口の中で魔法の呪文を唱え始める…
少女は、一呼吸置くと、今度は気合いのこもった声で掛け声をかける。



「えいっ!!」



その声と同時に少女の回りに真っ白な煙のようなものがにわかにわきあがり、すこしずつ煙が薄れていくと、そこには真っ黒な一匹の猫がいた。
猫は、優雅な歩みで鏡の前に立つ。



「う〜ん…完璧だけど、猫じゃあねぇ…」

鏡の前で、真っ黒な猫が呪文を唱え始め、気合いの声と共に、また、先程と同じような煙が立ち昇る。
その場所に立っていたのは、先程の少女だった。
少女は、鏡の横の長椅子に腰掛け、頬杖を着く。



(だめだわ…こんなありきたりの動物じゃ、マリアンには勝てない…
でも、ドラゴンやユニコーンに変身する呪文は難しいし…
私の魔力じゃそんな大きなものとても無理だもの。
そうだ!子馬に変身してツノをつけてユニコーン!…なんてどうかしら?
……駄目よね。そんなの却ってみっともないわ…)



この屋敷の娘・アイシャは明日に迫った魔法大会で披露する魔法に頭を抱えていた。
小さな頃から、魔法の才に長け、天才少女と謳われたアイシャだったが、三年前にこの町に引っ越してきたマリアンによってその輝かしい地位は奪い去られた。
二年連続第二位…この屈辱からなんとしても抜け出そうと、アイシャはその対抗策に頭を痛めていた。



(そうだ…!
合体させれば良いんだわ!
合体して、今までに誰も見た事のないような架空の生き物を作り出せば…!!)



自らのアイディアに酔いしれるアイシャは、早速、その作業に取りかかる。
どの動物のどの部分を組み合わせるかを考える。
大きなものは無理だから、小さくて可愛らしいものにすることにした。
そして、その呪文を複雑に組み合わせる。
何度も考えては、変身を繰り返してみるが、なかなかこれといってアイシャの気にいるものは出来なかった。
魔力を遣いすぎて、へとへとになりながらもアイシャは何度も変身を繰り返す。


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