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□†013:南にある街
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「退屈ですわ…」
カウンターの上に置いた、金のチェーンで繋いだ硝子のネックレスを指先で弄ぶ。本物の有する神々しさなど微塵もない偽物は、けれどそれがなければ情報屋も兼ねる酒場に入ることはできない。にも拘わらず、リヤナはその大切なトレジャーハンターの証である偽宝石を指先で弾いた。
転がったそれは、数多の人間の汗や涙や血を吸ってきた年代物の木製カウンターに置かれた掌に当たって止まる。模造品を摘むその動作は、がさつなイメージをもたれやすいハンターにしては優雅さすら孕んだものだった。
「あまり粗末に扱うものではありませんよ、レディ」
声を掛けられて初めて、リヤナの紺碧の瞳が動く。
「…あら」
零れ落ちる甘い声。
浮かべられた微笑み。
頬に当てられた白魚のような細い指でさえ。
神の傑作と吟遊詩人に謳われても決して誇張ではない、見る者の心を絡め取って離さない美が、そこにあった。
「美の女神に愛された麗しの方。お隣、失礼してもよろしいでしょうか」
甘い微笑み。
紡がれる媚薬の声。
胸元に手を添えるその動作さえ。
物語の中に出てくる王子そのもののような優雅さを持つ好青年の、しかしその銀髪から覗く耳に付けられたピアスは、確かに彼がトレジャーハンターであることを証明していた。
「あら」
背後に薔薇の咲く完璧な微笑み。
確信した了解の応え。
「そういう事は、宝石の街と謳われるルヴィナで一番高い宝石をその手にしてからおっしゃるのね」
差し出した手は、薔薇の棘によって傷を負う。
「そんな模造品で釣られる程、私は安くなくってよ」
金髪を払う。
そのウェーブの掛かった柔らかな金糸は、微笑を浮かべたまま彫像と化している青年の頬をそっと撫でた。