小説2
□不覚にも、
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黒い髪も、体の中に隠されている本質も二人は違っていた。父は息子の異質な部分を殊更愛したが、彼は親子であるというのにという固定観念のもとその愛を辛く受け止めていた。
「伯爵はどうだったのですか」
ある夜三世がそう尋ねると二世は浮かべていた笑みを消して月光の下で立ち竦んだ。二三度心無い返事をして話題を変えようとしても三世は諦めない。
しつこく食い下がる彼をキスで封じても閉じられない赤い瞳は問いかけていた。
たがか髪の色ひとつ。
その夜までそれくらいにしか思っていなかったというのに二世の心は乱れに乱れていた。
「あの方はずっと銀の髪をしていらした。私とは全く違う色だ。まだお前に近い光沢だ」
どうして証を欲しがってしまうのだろう。愛していると言っておきながら愛されたがっていた時代はその人との間にある差異が悲しくて全てを憎んだものだ。
「三世は伯爵に似ている」
(だから、もしかしたらお前の子は私に似るかもしれないね)
一代置きにこの茶番が続いて行くのも天が思召した意志なのかと二世が遠くの月を見ると今にも千切れそうな程に羽を広げて蝙蝠がこちらに飛んで来ているのが見えた。もう現実に還らなければいけないらしい。そうしてまた三世は愛されたがり、自分は愛されたがっていた時代を忘れていくのだろうと彼は思った。
不覚にも、
(そうあればいいと祈ってしまったよ。それも愛の形なんだと)
end