小説2

□おひきとり下さい下衆野郎
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柔らかいベッドは嫌い。

明るい月夜は嫌い。

甘い菓子も嫌い。


引き剥がしたシーツを床に転がして、開かれていた窓を閉めたら、月は黒い雲に隠されて星明かりだけが私を見下ろしていた。


クッションを捨てただけでガリガリに痩せてしまったベッドに横になってみる。そしたら可笑しなことに心の中が空っぽなことに気づいてしまったのよ。


気に入らないものを裂いて行ったら残る物は好きな物だけのはずなのに、どうして上手く行かないのかしら。


1+1は2だなんて人間臭いことを鼻から信じていたわけじゃないけどここまで不可解だとちょっと付いていけない。


いつの間にか私の部屋はただの四角い空間になってた。これ以上何を削れば気が済むのかわからない。


ノックが聞こえて、転がしていたシーツを慌てて被った私を笑うのはあいつだわ。あいつに決まってる。


どうせまた鬼太郎に負けて帰って来たのを馬鹿にしにきたのよ。


「ザンビア」


開けてくれ。


控えめに囁いても耳元で言われているみたいに感じさせるのは吸血鬼の能力なのかもしれない。


悔しいことに顔と声だけはいいんだもの。


(きっとこの声で色んな女の子を捕まえてきたのね。それで私もどうにかなると思ってるんならこれ以上の侮辱はないわ)


「ザンビア、月が綺麗だよ」


「だから見てないのよ」


月よ。

私の狂気を食べてください。

そしてあなたがそれに歓喜して下さるなら、爆ぜて。

私の狂気を見届けることがもしできないなら、



お引き取りください下衆野郎



三世の頭にでも落ちて、消えてよ。



柔らかいベッドは嫌い。(抱きしめられたことを思い出すの)

明るい月夜は嫌い。(あんたの髪の色なんか)

甘い菓子も嫌い。(どうして唇に甘いものが触れる度にその顔が頭に浮かぶのよ)


「冷たいな」


楽しそうな笑い声が遠ざかる。


完全に消えた時に窓の鍵を解いた。


赤いバラが1輪挟み込まれていたのを見つけて、投げ捨てる。


――……部屋の中央の寂しい床に。


外に投げるのはあんまりじゃないの。
花が可哀想だわ。花が。


「嫌いよ……あんたなんか」


あいつから解放されるために何もかも捨てた部屋は、赤いバラをよく映えさせた。



End

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