アキの小説
□夏
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のぼせてるときって、結構思考が鈍るだろ?だから悪いのは全部この暑さのせい。暑くて体がおかしくなってるだけだ。
『夏』
外で蝉の声が聞こえる。それは暑さに拍車をかけるだけの存在だと思う。要するに、いらねぇってこと。
「あーうっせ。呪い殺してやりてぇよ、ホント」
俺は畳の上に寝転がってただ暑い暑い言ってるだけなのに、角都ときたら帳簿なんか付けて涼しげな顔して座ってやがる。あー腹立つ。暑っちぃし、暇だし、角都は構ってくれねぇし!
「あちぃー」
もう何度も言った言葉。言ったからといって別段涼しくなるわけでもないんだが、どうも沈黙は嫌いだ。
「なぁ、角都」
角都の微動だにしない背中に話しかける。
「角都ゥー」
その手は止まってもくれない。おまけにこっちを見てもくれない!そんなに物書きが好きなんですかそうですか。
「角都の馬鹿」
「…さっきからなんだ、飛段」
角都が振り向いた!溜息っつーいらねぇもんもセットだけど。
「へへっ、やっと振り向いたァ」
そう笑いかけたのに、角都はまた前を向いた。
「あってめ、無視すんな!」
「うるさい」
んだよそれ!そういう風に一括してくるその態度。むかつく腹立つ苛立つ!マジ殺してやろうかな。の前に殺されるな、絶対。ま、俺死なねぇし別に良いけど。
「じゃあ構えよ」
背中に引っ付く。殴られっかな。
「暑い、離れろ」
…しか言わなかった。あれ、角都ちょっと優しい?思考が鈍ってるとか?この暑さはやっぱりご老体にはキツイのか?
「角都なんか今日優しい…ぃてッ!」
…前言撤回。思いっきり頬殴られた。マジありえね。しかも角都また帳簿付けはじめたし。あー最低。調子乗らなきゃよかった。ホント。
「なぁ、ごめんって。角都」
「…お前は何がしたい」
また溜息。でもちゃんとこっち見てくれてる。あぁカッコイイ。ホントやばい。好き。好き好き好き。
「近くに居たい」
「…」
俺、何がしたかったんだろうな。角都の邪魔したい訳でも何でもねぇのに。
「角都」
角都のマスクを外して唇に触れる。柔らかな感触。
「飛段」
「ん?」
「誘ってるのか?」
「ばっ!ちげーよっ」
ふざけんな、エロじじい!ちょっとアレだよ、アレ。ただキスしたくなっただけで、別にしたいとかそんなんじゃねぇし!勘違いすんなハゲ!
「てか笑うな!」
「分かりやすいな」
違うっつってんのに。でもまぁ?角都がしたいっていうなら、うん、してやらねぇことも、ないかな。
「んだよ。してぇの?」
角都は何も言わずに顔を近づけてきた。肯定の合図。あーあ、こいつとするの嫌いじゃねぇけどそれに溺れてる自分が嫌いだ。角都が居なくなったら、俺きっと生きてけねーよ。
何でこんなことなったんだっけ。ああ、俺がキスなんかしたからだ。暑いのに、何で引っ付いたんだろな。…暑かったからとしか言いようがない。暑くて思考が鈍ったんだよ!
…たぶん。
fin.