アキの小説
□戒律の話2
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「キスまでなら、大丈夫だから」
飛段が言ってきたのは、そんな言葉。
『戒律の話2』
「…どういう意味だ」
角都は訳がわからないと眉を潜める。
「だからぁー」
飛段は飛段で中々言えないようなことなのか、目を泳がせている。
「なんだ、はっきり言え」
「…〜っ」
あーだのうーだの何も言わない飛段にだんだんと苛立ち始める角都。
「言葉が思い浮かんだら呼べ」
角都は未だに悩む飛段に背中を向け帳簿を付け始めた。
「わ、分かった!言うから!な?」
面倒臭そうに角都は振り返り飛段を見遣る。
「…で?」
ため息付きで。
「か、考えたんだよ、俺」
お前の足りない脳みそで?という言葉を角都は飲み込む。そのまま無言で飛段の顔を見つめた。
「…やっぱりオレ、ジャシン様のことは裏切れねェ」
「何が言いたい」
明らかに角都は苛立っていた。中々言わない飛段に対してもそうだが、一番はその胡散臭い『神』に対して。何度ソイツに邪魔をされてきたことか。角都は飛段にキスをしようとして拒まれたときのことを思い出した。…実質一度だけだが。それからの角都は一度だって飛段に触れてなどない。飛段が嫌がることをするくらいなら我慢しようと決めたからだ。
「最後まで黙って聞いてろよ」
「……」
角都は思いっ切り顔をしかめた。
「ジャシン様のことは裏切れねぇ。けど、角都なら…」
飛段が角都を伏し目がちに見る。擦り寄って来たので胸のペンダントが角都からよく見えるようになった。飛段は上目遣いのまま少し困ったような顔で口を開いた。
「角都となら、良いかなあって」
角都は一瞬意味が分からなかった。
「…何?」
そう問うと飛段が戸惑いがちに角都のマスクを外した。
「キスまでなら、ジャシン様も許してくれる。ハズ」
小さな消え入りそうな声で、それだけ言って唇を合わせた。
「…」
触れるだけのキスは角都にとっても飛段にとっても長く感じられる。角都は未だに状況が掴めず、困惑していた。角都は飛段の顔を優しく手で挟み、離した。
「飛段」
「…何」
お互いのする息がかかるほど、近い。
「よく、分からないんだが」
「…オレが」
桃色の目が角都を見つめた。
「オレが、角都を好きってこ…んっ」
角都はその言葉を聞き終わらないうちに飛段の唇を奪った。
「んぅ…ぁ」
甘い声を出す飛段に、角都は自身が勃っていることに気づいた。だが飛段が自分とキスすることにどれだけ悩んだのかを考えると悲しくなったので、気づかない振りをした。
でも、唇を離したあとの飛段の顔が嬉しそうに笑ったものだから。
…トイレに直行する嵌めになった。
fin.
我慢し続ける自信がない。