アキの小説

□悪夢のあと
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『悪夢のあと』


上から岩がたくさん落ちてきた。合間に、自分を生き埋めにした男が冷たくこちらを見ているのが見えた。だが、岩が岩が岩が。迫ってきた。近づいてきた。何個も顔に当たって痛みと共に血の流れる感覚。痛くはない。痛くはないが、わけもなく悲しくなった。地中奥深く。誰も気づかない。冷たい土。バラバラになってしまった身体が冷たさを感知する。冷たく軽蔑とも取れる目は、もう見えない。でも男はうろたえなかった。

「はァー痛ェ」

誰にも聞こえないであろう嘆きを漏らした。

「アイツ、なんつったけ?シカ…シカなんとか」

数分前自分を生き埋めにした男の顔を思い出す。むかつく奴だ。最後まで自分を小馬鹿にしたような顔をしていた。

「ぜってージャシン様の罰が下るぜ」

含み笑い。少しの違和感を感じる。

「んー…?あ、そっか。角都、居ねーんだ」

いつもの小言が聞こえない。それはそれで五月蝿くなくて良い。だが慣れきった角都との言い争いが懐かしくもある。妙な感覚だ。

「角都ゥ。早く、来てくんねェかなぁ」

暇だ。身体も早く繋げて欲しい。早くここから出たい。気持ちは高まっていく。

「今頃あの無神論者ども、皆殺しにしてんだろうなァ」

角都は強い。絶対負けない。変な自信があった。だから、自分を探してくれると。見つけ出してくれると。確信がある。だから、もう少し。もう少しだけ待てば、来てくれる。目を閉じた。暗闇は変わらなかったけど、安心感。次に目を覚ますときには角都が目の前に居るだろう。バラバラになった身体を見て一言。「気をつけろと言っただろう」
これだ。安心する。角都は面倒臭そうに、でも、きっと身体を繋げてくれる。安心感。角都は来てくれる。男は安心して眠りについた。

「目が覚めれば、夢も終わる」

言葉を紡ぐ。自分を諭すように。静かに、静かに。



fin.



相方が死んでしまったのも知らずに、迎えに来てくれることを夢見て男は眠りについた。

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