アキの小説
□追憶
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『追憶.3(完結)』
これは本当に困った、と頭を抱えていると、いつの間にか近くに居たプロイセンがドイツの手元にあった本を奪い取る。
「何だ、話しかけておいてよ」
読んでいたページでひっくり返してあった本を、パタンと閉じられる。
「あぁ、何だ、寂しかったのか?」
「ふざけるな」
お得意の悪人面を見せられて、少しドイツは苛立つ。
「こんな、本ばっか読んで」
そう言って、本をドイツの手元に投げ返した。
―誰が読ませたんだ、誰が!
と言おうとして、疑問府を浮かべる。
誰が…?…誰だ?
「深刻な顔してどうした?何かあったのか?」
そんなドイツにお構い無しにいきなり彼が顔を近づけてきた。それに反比例するようにドイツは少し後ろにのけ反る。
「…いや」
目を合わせられなくて、手元に戻ってきた本に目をやる。
「そうだな、…読んでいたページが分からなくなってしまった」
「ははは、そいつは困ったな」
彼はそう言って元の席に戻ったのを見て、ドイツは安堵した。
「プロイセン、コーヒーでも飲むか?」
「良いな。俺の砂糖入れといてくれよ」
お前が作るブラックは苦いんだ、と彼は笑う。それにドイツは曖昧な表情で返した。
昔のことを思い出そうとして、無駄な時間を過ごした。でもまた例の夢を見てしまいそうで、またこんなことになるんだろうなぁ、と小さく溜息をつく。どこかであれは本当のことだと思い始めている自分が居て、腹が立つ。
腹いせか、ただ忘れていたのか。ドイツはどちらのコーヒーにも砂糖を入れないでいた。
fin.