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□『好き』の言葉を
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獄寺と付き合いはじめて4ヶ月が経った。
夕暮れの帰り道、やっと伝えた気持ちは、うまく言葉になってなかった気がする。
それでも、獄寺は真っ赤になって頷いてくれたんだ。

何度かキスもした。
拒まれるんじゃないかと不安だったから、顔を近づけた時に獄寺が目を閉じたのを見て安心した。


部活がない時は一緒に帰って、そのまま獄寺の家でまったりできるようになった。

最初に家に行きたいと言った時の獄寺のうざがりようを思えば、これは相当の進歩だと思う。



でも、俺は獄寺に好きだと言われたことがない。




「獄寺、帰ろ」
「お前部活は?」
「今日は休みだって朝言ったじゃん」
「そうだっけ」

獄寺は朝が弱くて、半分寝ながら歩いてるようなものだから、俺の話を聞いてなくても仕方ない。
一緒に登校できただけで幸せだ。



「でさ、そのあと先輩が俺だけ練習メニュー増やしてさ、ひどいと思わねえ?」
「そーだな」
「まぁ、終わった時間はほとんど一緒だったんだけどな」
「ふーん」
「ちゃんと俺の話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
俺は電柱にぶつからない程度に、獄寺の方を向いて話す。
獄寺は俺を見ようとはせず、前を向いて歩く。
これじゃキャッチと変わらない。

「今日このまま獄寺んち寄ってもいい?」
「嫌だっつっても来るんだろ」
家に上げてくれるだけでも、獄寺が俺に気を許してる証拠だ。
獄寺は誰でも自分のテリトリーに入れる人じゃない。

口が悪いのだって、今に始まったことじゃないし、本気で嫌だったら、はっきりそう言うだろう。



そうこうしているうちに獄寺のマンションに着いた。
獄寺はソファに座りテレビをつけ煙草を吸い始める。
隣に座ると、獄寺は煙が俺の方に来ないように反対側を向いて紫煙を吐き出す。
その心遣いが嬉しかった。

「なぁ獄寺、明日ヒマか?土曜だし、映画でも観に行かねえ?買い物とかでもいいけど…」
「うるせえテレビが聞こえねえ」



獄寺は悪くない。
俺だって野球中継観てるときに隣でうるさくされたら嫌だし、無視されるよりずっといい。

でも、そんなに邪険に扱わなくたっていいだろ?

俺のことが好きだから、告白したときに頷いてくれたんじゃないのかよ。


俺は、黙ってテレビを消した。


「おい何すんだよ!」

獄寺はリモコンを取り上げようとするが、俺は獄寺の手を避けて、リモコンを部屋の隅に投げた。

「…山本?」

俺がそんなことをするとは思わなかったようで、獄寺は驚いた顔をしている。
そして、少し不安そうだ。

「おい、急にどうしたんだよ…」

「…不安なんだよ」

不安?と獄寺が小さな声で聞き返してくる。

「なんだよ、不安て…」

「お前が、本当は俺のことなんか好きじゃないんじゃないかって…」

獄寺が目を伏せる。
その意味がわからない。

「獄寺はそういうこと簡単に口にする人じゃないってわかってるけど…でもさ、どうしても不安なんだよ」
獄寺は目を伏せたままだ。

「一緒に帰ってくれたり、キスしても拒まれないことで、獄寺も俺のこと好きでいてくれてるんだって思えたけど…でも…」


ふと不安になったとき、心の中のどこか冷めた俺が言うんだ。
『なんだ、俺、獄寺に好きって言われたことないじゃん』


どうしても今、言葉が欲しい。


「獄寺、好きって言って」


俯いたままの獄寺は、切なそうに眉を寄せて、微かに睫毛を震わせている。

俺は形のいい唇を見つめながら、それが『好き』と動くことを祈った。



ふいに手の甲に温もりを感じた。
目をやると、俺の手に獄寺の白い手が重ねられている。

「ごめん」

続いて聞こえた声は望んだものではなくて、重ねられた温もりと、その言葉の意味が理解できなかった。
別れを告げる謝罪なら、この温もりはなんだ…?

「お前が、そんなふうに思ってるなんて知らなかった。不安にさせて、ごめん」

そう言って獄寺は俺の胸に顔を埋めた。
背中に腕を回すと、獄寺もそうしてくれた。


「獄寺、俺のこと、好き?」

腕の中の銀髪が小さく動く。


「ありがとう」

背中に回された腕に力が込められた。



結局、言葉はもらえなかったけどもう不安は感じなかった。



しばらくそのまま抱き合って、体を離したときに獄寺が言った。






「明日は、空いてる」










END
+++++++++++++++
前半の獄寺がひどすぎてすみません。
特に「テレビ聞こえねえ」……
シリアスな話してる時に後ろで夕方のニュースが聞こえるのもどうかと思い山本に消してもらったんですが、そのために獄に言わせたセリフでして…
テレビつけなきゃいいじゃねえかって感じですが…それも削りたくなくて…(言い訳)

獄もちゃんと山本大好きなんですよ!

あと何気に『4』を出しましたが『5』はないと思います。
でも4で終わるのも不吉…←


言葉にできないごっくん萌えです。
山本はそれを理解した上で愛してあげなきゃNё←


2008.09.02
黒川


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