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□MIDNIGHT CALL
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さびしい。
でもだめだ、あいつは今日も朝練があるんだから。
こんな時間に起こしたら悪い。
ただでさえあいつは、俺のためにいろんなものを犠牲にしているのに。
部活の仲間と過ごす時間、休日にバッティングセンターに通う習慣も、店を手伝う時間も、自分勝手にあいつを振り回す俺が奪ったものだ。
それでも笑顔で俺の隣にいてくれるあいつに、俺は何一つ与えられずにいるというのに。
だから、こんな夜中に呼び出したりしたらだめだ。
電話をかけて、『来い』と言ったら、あいつはすぐに駆けつけてくれる。
少し乱れた呼吸を整えながら『どうした?』と聞くあいつに、俺はまた素直になれずに本当に来たのかよとか手ぶらかよとか言ってしまうんだ。
それでもあいつは笑って、俺の寂しさを拾い上げてくれるんだろう。
そんなのは不公平だ。
俺だけが得をして、あいつだけが損をしている。
だから、だめだ。
もうどれくらいの時間、こうして携帯を見つめているんだろう。
着信履歴に並ぶ愛しい名前。
中央のボタンを押したら、数分後にあの温もりが包んでくれる。
『だからだめだって』
俺は自分に言って、携帯を閉じてベッドに放り投げた。
振り回しちゃいけないんだ。
好きなら大切にしなくちゃいけないんだ。
求めるばかりじゃなくて、もっとあいつのためになるようなことを、してあげなくちゃいけないんだ。
何もないな、と思うと涙が出そうで、シーツを握ってこらえた。
そのとき視界に入った、青。
俺を呼ぶように点滅する、あいつの好きな色。
ディスプレイには、求め続けた名前。
俺は慌てて携帯を開いた。
『あ、獄寺?』
『…なんだよ、こんな時間に』
『ごめん。寝てた?』
『いや…』
『そっか』
『なんだっつーんだよ』
山本にしては珍しく、言葉に窮しているようだった。
しばらく続く無言が、俺に最悪の言葉を予想させる。
『お前の声、聞きたくなってさ』
涙が出た。
『お前の夢、みて、急に会いたくなって、明日会えるって思ったけど我慢できなくて……』
『来い、よ……今すぐ、会いに来ればいいだろ』
『いいの……?』
『……俺も、会いたい』
最後は涙で息だけの声になってしまったから、あいつに届いたのかはわからないけれど。
それでも数分後、俺は抱き締められるんだ。
夜中だからチャイムは鳴らすなと言って電話を切ってから4分。
ガチャ、と音がした。
俺がドアを開けて、あいつが後ろ手で閉めた。
渇望した温もりがやっと手に入って、俺は涙が止まらなくなった。
『獄寺、大丈夫?』
頭を優しく撫でながら、あいつが言う。
『お前も会いたかった?』
小さく頷くと髪にキスが届いて、もっと素直になろうと思えた。
『夜中目が覚めて、真っ暗な部屋にひとりってことが当たり前なのに急に寂しくなって、本当にひとりぼっちになったみたいで…お前に会いたいって思ったけど…お前明日も部活だし、電話、できなくて……そしたらなんか掛かってくるし…もうわけわかんねぇ…』
山本は、はは、と軽く笑って腕に力をこめる。
『なんか、嬉しいなぁ。お前が寂しい気持ちになったことは、いやだけど、でもそういう時に俺を思い出してくれたってのが、本当に。』
涙はまだ止まらなくて、濡れたあいつのシャツが冷たかった。
『でもさ獄寺、自分がひとりぼっちみたいに感じた時に、俺たちがお互いのことを思い出すなら、俺たちはひとりぼっちじゃないよ』
寂しい時に会いたい人が、同じように会いたいと思ってくれるなんて、そんな幸せなことはないと思った。
『山本……』
寂しさはいつの間にか愛しさに負けてどこかに去った。
この温もりに包まれた瞬間に溶けて涙になったのかもしれない。
『獄寺、寂しい時はいつでも呼んでくれな。遠慮なんてしなくていいから。俺が何も知らずに部活行って、その時にお前が泣いてたりしたら、絶対嫌だから』
キスを受け止めて目を閉じると、流れ損ねた涙が落ちた。
気がつけば空は白み始めていて、大会前の山本は部活に行かなければいけない時間だった。
出ていく山本にキスをして、『頑張れよな』と言ったら、たったそれだけの言葉なのに、山本はとても嬉しそうに、笑ってくれた。
end
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うちの獄はもっと自分からいかないとだめですね(汗)
全部言わせちゃってるやんけ…
まぁそれもよし←
憧れとか助けてあげたいとかじゃなくて、寂しい時に会いたいと思う人が本当に必要で好きな人だと思います。
相手もそう思ってくれるなんて、きっと奇跡ですね。
2008.09.28
黒川
SPARK帰りです。