偉太刀の間

□ここあ様より頂いた鼬誕生日小説
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ねえ君は…
どうしてそんなにも俺の力になってくれるんだ?

ねえ君は…
どうして俺の傍に居てくれるんだ?

ねえ君は…
俺を愛してくれているのだろうか?






連日連夜の暗部の任務。
人間の生理的な欲求すら自由に満たせないほど忙殺され、特殊訓練で鍛えた心さえも悲痛な叫びを発して、普段は軽い体を嫌に重たく不自由にする。

任務を遂行することは俺にとっての存在意義。

それだけが俺の全てなのに、毎朝毎晩の死闘になぜだか体が苦しくて。

普段はしないようなほんの些細な読み違いで、体から血が滴った。

「赤い…」

俺は人間じゃないなんて本気で思っていた時期もあったけれど、俺の体にも赤い血が流れていたんだ。

体が力を失っていく。

ろくに睡眠も食事もとっていない今…血を奪われるのは相当つらい。

応急手当ての包帯を巻いて、暗部から地上の任務へ向かった。


「イタチ兄ちゃん」
通りかかった演習場に見覚えのある橙色。


「おはよう、ナルト」
腰に巻かれた包帯を彼の両目が見つめていた。

「兄ちゃんっ…血、滲んでっ」
君は僕のことが嫌いじゃなかったのかい?
サスケをライバル視する君は、その兄である俺のことも敵対視してるんじゃなかったのかい?
てっきりサスケに対する時のように、あの元気な調子でつっかかってくるだろうと思っていたのに。


「兄ちゃん…顔色すげえ悪いってばよ」
表情がまるで読めない顔だっていつもからかうのは君なのに。
そんなに珍しくもないだろう?

「大丈…」

「大丈夫なわけねーだろ!いいから来るってばよ」

ナルトは突然俺の腕を掴み、彼の家らしき場所に連れていく。

「そこに寝てて、今包帯持ってくっから」
ナルトのベッド。
ナルトが今朝まで寝ていたベッド。

「久し…ぶり」
柔らかい布団の肌触り。
体が急速に眠気を訴える。

「ナル…ト」
どこに行ってしまったのかナルトは顔を見せなかった。

その時俺は夢を見た。

木漏れ日が降り注ぐ暖かな部屋の中で、何かが俺をそっと包み込んで

「もう無理なんてしなくていい。傍にいるから。」

「大丈夫だから。」

「だからゆっくり休んで。もうこんな無理はしなくていいから。」


そう、何度も何度も…俺に優しく言い聞かせていた。


時折強く包み込まれ、誰かに抱き締められているんだと夢の中で考えた。

柔らかい体が俺を安心させるように抱き寄せて、髪を静かに撫でている。

「ナ…ルト…」
口に出した言葉は俺が望んだ名前だったのかもしれない。


夢とも現実とも分からないような感覚の中で目を開ければ、俺を見つめるナルトがいた。


「兄ちゃん、大丈夫か?病院行くなら連れて行…」




その唇は柔らかかった。




「ナルト…」

露草色の瞳がゆかしくて、撫子色の唇が愛しくて

気付けば手のひらで頬を引き寄せ口づけていた。






流れる沈黙も俺には心地よくて、なんだか無性に頬が緩む。



「ナルト…ありがとう。」


「っつ…」

気付けば俺はナルトに抱き締められていた。


「兄ちゃんの馬鹿っ…いきなり寝てるから俺…イタチ兄ちゃんが死んじまうんじゃないかって…心配してっ…馬鹿っ」
君は意地っ張りだからいつも俺の前じゃ素直にならない。

俺は意気地無しだから君の前じゃ強く出られない。

互いの想いを感じながらも、ずっと言い出せずに来てしまったね。


「ごめんな…ナルト」
触れたかった梔子色の髪を撫でれば、俺の胸に擦り寄せられる顔。


「病院っ…行かなくて、大丈夫なのか?」
病院なんて行ったって診断と薬が与えられるだけ。

俺が欲しいのはそんなものじゃなく…


「ナルトが傍にいてくれるだけで十分だ。」






「なっ…に言ってっ…」
こんな風にして君を恥ずかしがらせる方法もあったんだ。

桃色に染まった顔が愛しくて、その柔肌に口付ける。


「なにすっ…」


「ナルト…」
名前を呼ぶだけで、あんなに元気なナルトが黙りする。
どことなく目を潤ませ、唇を微かに震わせて。
あまりにも可愛らしくて口から出てしまった。


「好きだ…ナルト」
ねえ、答えはもう決まっているだろう?
お互いに言えなかっただけなんだ。
次は君の番だよ。


「兄ちゃん…俺…俺…」
慌てなくていいから。
俺の顔を見つめて。
君のその想いを…。


「っん…」
ナルトから貰ったのは言葉ではなく、柔らかさだった。

でも君の想いは伝わったから。
君がいれば俺はこれからも頑張れるから。
だからこうしてずっと傍に居てくれないか?

「本当にありがとう…」
まだまだ忙殺されるような日々は続くけれど、君さえいれば俺は乗り越えられる。

君の笑顔とその声が、今は俺の存在意義だから。


end……

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