もくもく、もくもく。


校内を隈なく探しまわって、ようやく探し当てた人物は、真っ白な煙を吐き出していた。
その真っ白な学ランと、重力に逆らった特徴的な白髪が、その人を彼だとわたしに知らせる。


『じーん、』

「…」

『仁ってば!』


壁に寄り掛かっている彼にそっと近付き声を掛ければ、彼、亜久津仁は特に驚いた様子も見せずチラリとこちらに目だけを寄越した。
そして右手に摘まんだ煙草をゆっくりと見せ付けるように自らの口へ運び、深く吸い込む。そんなに深く吸い込んで咽ないのか、と言うほど長く吸い込むと、仁はそれに見合う程大きく真っ白な息を吐いた。

その一連の動作が行われる数秒の間、わたしと仁は目が合ったままで、わたしは次第に頬に熱が集まって行くのを感じる。

だって、仁のやること為すこと、全て絵になるから。
しなやかで、それでいて獰猛な獣に囚われたみたいに目を反らせない。

それを意図してやっているのか否か、仁はニヤリと妖艶に微笑む。

気付けば私は吸い寄せられるようにふらりと仁の隣に歩み寄っていて、猫がするようにゴロリと彼の右腕にすり寄っていた。

太く固く、逞しさを感じさせる腕。その先には未だもくもくと煙を立ち上らせる煙草があった、はず、なのに、仁はすっと左手に持ち替えた。
その指先が向かう先はコンクリートで固められた地面で、熱は呆気なく地面に散った。

じりじり、そんな音が聞こえてきそう。



頭を腕に預けたまま仁を見上げれば、待っていたと言わんばかりに唇に噛み付かれた。
逃がさない、とでも言うかのように。






その男、猛獣につき
襲われることは覚悟のうえ






苦味のあるキスに
不器用な優しさに
(捕まってしまった、)
(そして今日も)
(わたしは仁を探しにいくの)


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