Novel
□幸せな朝
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何か物音がして目が覚めた。
ふと隣を見ると、白銀の姿がなかった。
「白銀…?」
何処行ったんだ?
部屋を出ると、良い匂いがしてきた。
食べ物の匂いだ。
不思議に思って階段を降りて行く。
リビングに入ると、白銀が台所に向かっていた。
「白銀?」
白銀は振り向く。
「あっ! おはよう〜昶君♪ よく眠れました?」
満面の笑顔を向ける白銀。
「あ…ああ、まあな。ていうかお前、何やってんだ?」
台所のキッチンには、フライパンやボールが置いてある。
「ふふ♪ ちょっと待っててくださいね!」
そう言って微笑み、再び背を向ける白銀。
「一体何やって…」
昶が近付いて行くと、白銀は振り向き、昶の肩を掴んだ。
「おいっ…何だ」
「良いから♪ 座っててください!」
昶を椅子に座らせると、台所へ戻る白銀。
その背中を見つめる昶。
また…俺のために、何かしてくれるのか…
そう思う度、胸が痛む。
どうして…素直になれないんだろう。
「お待たせしました〜♪」
白銀はテーブルに皿を置いた。
それを見た昶は…目を疑う。
「これ…お前が…?」
皿の上には、巨大なオムライス。
真ん中には、大きなハートマークが描かれている。
「昶君…いつも朝御飯食べてないでしょう? 駄目ですよ! 朝はちゃんと食べなきゃ!」
何も言わず黙っている昶。
俺のために…ここまでしてくれるのか?
白銀…俺は、お前に何もしてやっていないのに…
どうして…
「昶君?」
昶を覗き込む白銀。
「オムライス…嫌いですか?」
白銀は不安そうな顔をして言う。
やめろ…
そんな顔すんなよ…
「いや…そんな事ねえよ」
なんで、はっきり"好き"と言えない…
「そうですか! 良かった♪」
微笑むと、昶の隣の椅子に座る白銀。
「はい♪ あ〜んしてください!」
スプーンですくい、昶の口の前に持っていく白銀。
「なっ…するか!」
嘘ばっかり…
本当は、それを望んでいるくせに…
「そうですか…残念」
寂しげな表情になる白銀。
昶は、暫くオムライスを見つめる。
隣で見ている白銀。
「じゃあ…」
スプーンですくい、口に入れる昶。
「どう…ですか?」
「うん…美味い…よ」
ぼそっと呟くように言う昶。
「本当ですか!? 良かった〜♪」
心底嬉しそうに声を上げる白銀。
「では、ワタシも…」
昶の手からスプーンを取ると、すくって口に入れる白銀。
「えっ…それ俺が使ったやつ…」
「…まあまあってところですかねェ。あっ! ひょっとしてこれは…間接kissというものでは?」
「な…何言ってんだよ!」
すると、思い出したように呟く。
「そういえば…まだ、してませんでしたね…」
「? 何が?」
白銀は昶の肩に手を置く。
白銀を見る昶。
昶は、体が硬直してしまったかのように、動かない。
昶に顔を寄せる白銀。
重なる唇。
目を閉じると、それだけで頭の中は…白銀の事でいっぱいになる…
今日は…オムライスの味
俺の大好きな…オムライスの…
でも…
それよりも もっと…
もっと、好きなのは…
あぁ…やっぱり俺は…
白銀…
不意に唇が離れる。
昶は目を開ける。
白銀はにっこりと微笑む。
「じゃあ…冷めないうちにどうぞ♪」
「…ああ」
戸惑いつつも昶は頷くと、スプーンですくって口に運ぶ。
それを横で見ている白銀。
なんて…美味いんだ
こんなに美味い飯…食べた事があるだろうか…
白銀が作ってくれたものだから…なのか
そのオムライスは…白銀の想いがいっぱい詰まっているように感じられた。
白銀の想いを知るほどに…
胸が 苦しくなる
言えない自分が…嫌になる
情けない…