Novel

□放課後の影
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暖かい陽射し。心地良い風。
自然と眠気を誘う。

高校2年の春。
昼食を終えた後の5限の授業は昶にとって、睡眠時間だ。
今日も、いつものように教科書を広げてはいるものの、その上に顔を伏せて眠っていた。



「昶君」

誰かが俺を呼ぶ声がする。これは、夢の中なのか?

コツ…コツと、ゆっくり近付いて来る靴の音。



「昶君」

今度は声だけでなく、肩を揺すられる。
目を開け、顔を上げ横を向くとそこには、一人の男の姿があった。寝起きのためか視野がぼやけているものの、それが数学の担当教師、白銀である事が認識できた。
今年、新任としてやってきたばかりで、あまり話した事はない。
白銀は、腕を組んで立っている。

「何だよ」

授業中に居眠りをしていた事を咎められるのではないかとは思ったものの、あくまでも強気の俺だ。

「何だじゃないですよ。ほら、周りを見てごらんなさい」

「え?」

言われるまま辺りを見回す。俺と白銀のほかには教室に誰もいない。
ふと時計に目をやると、夕方の5時を過ぎていた。もう、授業が終わり部活のない生徒は下校する時間だ。帰宅部の俺なら既に帰っているはず。
授業が終わっても起きず、そのままずっと眠っていたらしい。


「理解できましたか?この状況が。もう、みんな帰りましたよ」

暫く考え込むように黙る俺を見かねてか白銀が言う。

「うるせえな、分かってるよ。早く帰れって事だろ。ていうか、なんでアンタがここにいるんだよ」

担任でもない白銀がいるのが、不思議だった。


「今日の日直は 私なんですよ。見回りをしていたところ、君を見つけたわけです」

「ふ〜ん」

まるで興味がなさそうに言うと、支度をしようと立ち上がった。

「帰れば良いんだろ」

鞄を持って行こうとすると、腕を掴まれた。

「待って」

白銀がそれを制するかのように言った。

「何だよ」

俺はいぶかしげな顔を向けた。
すると、白銀は微笑んだ。


「今日は、君と話したい事があるんですよ。少し、お時間頂けませんか?」

昶は鞄を肩にかけた。

「パス。俺忙しいから。じゃあな」

そう言い残し、教室を出ようと歩いて行く。

「昶君」

呼ばれて立ち止まる昶。

「まだ何かあるのかよ」

振り向かず背を向けたまま、ぶっきらぼうに言う。
暫しの沈黙。
ゆっくりと近付いて来る足音。
振り向くと、頬に手を添えられた。

「何だよ」

昶がいぶかしげな顔を向ける。


「君は…本当によく似ています…」

「はあ?」


「…私の 大切な人に…」

そう言って微笑む白銀から目をそらし、手を振り払う昶。

「何だよいきなり。わけわかんねえ」

昶は背を向けると、教室から出て行った。



「やっと…見つけましたよ…」

誰もいなくなった教室で、白銀は微笑み、そう呟くのだった。





end

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