Novel
□擦れ違う想い
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翌朝。
「昶君、起きてください〜朝ですよ」
「…ん…」
聞き慣れたはずなのに、懐かしい声…
誰かに起こされるのは…久しぶりだ。
重たい瞼を開けると、目の前には 白髪の男。
そうか…
戻って来たんだったな…
口に手を当て、欠伸をする昶。
「まだ…眠いですか?」
「…うん…」
瞳はほとんど開いておらず、ゆっくりと閉じ始める。
すると、白髪の男…白銀は、昶の頬にそっと手を添えた。
「私が、魔法をかけて挙げましょう」
そう言って 白銀は昶に顔を近付けた。
「ん…」
触れるだけの口付け。
昶はそれに応え、唇を合わせる。
唇を離す白銀。
「起きましたか?」
「…ああ」
まだ意識がほんやりしながらも、ゆっくりと起き上がる昶。
「おはようございます♪ 昶君」
白銀は微笑みかける。
「…おはよ…」
昶も軽く笑みを返す。
「さあ、早く準備をしないと。遅刻しますよ!」
「…遅刻って…高校じゃねえんだから…」
服を着替え、教科書をバッグに入れる昶。
「え? でも今、学校へ行っているんでしょう?」
昶に上着を着せてやる白銀。
「まあ…大学だけど」
準備を終え、部屋を出る二人。
「大学だって、れっきとした学校ではありませんか。遅刻は駄目ですよ」
家を出、路地を歩いて行く二人。
「お前…綾みたいな事言うんだな」
首を傾げる白銀。
「そうですか? あっ。そう言えば、賢吾君や綾さんも 同じ学校なんですか?」
「いや、二人とも別の学校に行ってる」
「そうなんですか…皆バラバラになってしまったんですね…」
「そうだな…」
名残惜しげに言う昶。
「寂しく…ありませんか?」
「…別に。時々は会ってるし。それに…」
立ち止まり、昶は白銀を見る。
「今は……お前がいるから…」
「昶君…」
昶を見つめる白銀。
再び歩き出そうとする昶の腕を掴んだ。
「ん? 何だ…」
昶は白銀の腕の中に収まる。
「おいっ…やめろよ…こんなところでっ…」
「大丈夫です。今は誰もいませんから…」
周りを見渡し、誰もいないのを確認すると、そっと 白銀の背中に手を回す昶。
「私は、ずっと…ずうっと一緒ですからね…」
「…うん」
暫く抱き合っていると、人の気配を感じ、どちらともなく体を離す。
「…ほら。行くぞ」
「はい」
二人は 並んで歩いて行った。
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