戦慄篇


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三月、この辺ではもう桜が五分咲きになっていた。東京はまだ殺伐とした冬景色だった為か、暖かい場所だと感じた。

福岡空港第三ターミナル。
私は彼らの凱旋ライブ、彼らの十年振りとなる里帰りに同行することになった。初めて訪れる日田市という街は「水が綺麗」「前の市長が超ムカついたよなー」とかメンバーに話だけは聞いていた。
その彼らは現在レコーディングでロンドンに三ヵ月程滞在していたのだが、今日から一時帰国する。直接九州にやって来る次第であり、私はそれを待っていた。ロビーに間もなく到着するらしいアナウンスが掛かった。


「名嘉間っちー!」と声がした。
そちらを見れば、私が待っていた人々がこっちに向かっている。私も彼らに手を振り返した。
大きなスーツケースを引き摺りながら、三人の男女が駆け寄って来た。
「名嘉間っち、元気だった?」
「相変わらずだよ。お前らもイギリスどうなんだ?」
「イギリス全っ然楽しめてねぇんだよ」
「ずっとスタジオにいてさ」
「私は紅茶苦手だからスタバが唯一の救いかもー」
「アハハ、元気だな。あ、高良に小里さん」

私は後ろからゆっくり歩いて来た二人の男女に声をかけた。
「名嘉間さん、わざわざすいません」と彼女は申し訳なさそうに言ってくれた。
「いえ、僕九州はあまり行ったことなくて慣れないんで、皆さんと一緒だと心強いです」
「俺たちも久しぶりなんで、色々変わってるかもしれませんよね。今日から宜しくお願いします」
茶髪の彼は礼儀正しくそう挨拶してくれた。
「こちらこそ、ガンガン取材させていただきます!二万字より凄いから覚悟しておけ!」
談笑もそこそこに、我々はバスターミナルへ歩いていった。


「間もなく杷木経由の日田行きバスが来まーす。御利用の方はこちらにお並び下さーい」
スピーカーを通して職員が呼び掛けていた。我々もその少ない列に並んだ。
「田舎だから人が少ねぇな」なんて笑っていた。

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