短編

□突発ss
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『静かだなあ』


ぽつりとそうつぶやくと、私の声が部屋に広がって、私はさみしくなった




『早く…、こないかな』




疲れて帰ってきたあのひとに、お帰りって言うの





























――――あの人が、帰ってきた





冷たくなって、帰ってきた


戦の中で左目を奪われ、そこを敵に突かれたのだろうと桂さんは言っていた



『―うそよ、だって』






だって彼は誰よりも強いのよ、鬼のように強いのよ、いつの戦だって勝って帰ってきたのよ、生きて帰ってきたのよ、私がお帰りを言うと、私だけに見せる笑顔でただいまって言うのよ、ずっと待っていたのよ

―なによりも愛しているのよ



『ねえ、おきて、お帰り、ねえお帰り』


乾いた血で汚れた左のほほに手を添える


『お帰りなさい、ねえ、返事を頂戴』




彼の冷たいほほに、ぽたりと雫が落ちた

『ねえ……っ』







(抱きしめて、キスをして、名前を呼んで)
(ねえ、晋助)






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