天才晶術師の章

□fateー5
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「……」
「大丈夫か、ルナ」
「……吐きそう…」
「…まったく、奴の心配は結構だがお前自身が酔ったら意味ないだろう」
「だって…予備…入れ忘れた…んだもん…」

 チェリク港への寄港準備に追われる船員達の傍らで、ルナは一人甲板でうなだれていた。


「ゔ……」
「お、おい…」
「だ…大丈夫…」




「大丈夫には見えないが?」

「!」

 かけられた声にルナは反応するも、振り向けない彼女。

(…こんな時に…)

「…他人の心配している場合では「わかってるも…ん…ゔ…」
「……」

 声の主、リオンはルナの隣に並んだ。

「後…少しの辛抱…だもん…」
「……」

「…なによ…側にいてくんなくて…いいわよ」
「あの酔い止めは自分の為か」
「…だったらなによ…別にあなたの為に…うぅっ…」
「まったく…」

 貰ったばかりの酔い止めをリオンはルナに渡した。

「…一つでい…また作る…持ってていい…」
「しゃべり方おかしくなってるぞ」
「うるさい…船酔い仲間」
「お前と一緒にするなっ!…だがまあ…船酔いの辛さは理解してやる」
「そりゃ…どーも…」

 ルナは酔い止めを口にほうり込み、海を眺めた。












「一つ聞くが…」
「なによ…」
「…さっきその猫、しゃべっていなかったか?」
「!!…っと…」
「……」

 ルナは視線を泳がせ、口ごもる。


「…フ、聞かれたなら仕方ない」
「!」
「カイト…」

 カイトはヒラリ、とリオンの肩へと飛び乗った。

「っ!?」
「だが、驚く事もない、"剣"がしゃべるくらいだ」
『た、確かにそう言われると…』
「お前もソーディアンと同じ、ということか?」
「少し違う、だが、似たような存在だな」
「…」
「我もまた、晶術が使える、もちろんこのレンズの力によってだが」
「…信じがたい話だな」
「まぁ、そうだろうね…だから黙っていた」

 海を眺めたままのルナは向きをリオンの方へ変え、口を開いた。

「隠すような事でもない、ただ我の声はソーディアン・マスターの素質ある者にしか聞こえないがな」
「!…それは初耳」
「言っていなかったからな…まさかルナ以外のマスターの素質ある者に出会うとは思うまい…マスターの素質ある者など、そうはいない」
「だが現実は違う…ここにはマスターが四人いる、素質を含めれば五人だ」
「そうだ…ソーディアン・マスターが集う…『神の眼』と『ソーディアン』…これは運命なのかもしれぬな…」
「…運命、か」
「…ふん、運命など僕は信じない…」
「それもまた、一つの考えだ」
「………」


 二人が話すうち、船はチェリク港へと到着した。


「着いたようだな…降りるぞ、ルナ」
「…」
「?何をしている、行くぞ」
「!あ、うん…」




 二人は船を降り、スタン達と合流する。






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