はりぽた小説

□We are fool. So please...
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 いつものことだけど。
 
 それがふと壊れたら、そのときに泣いても、もう遅いのかもしれない。
 
 日常こそが、何よりも愛しくて、大切なものなのに。
 
 気づいてしまったら、かえって壊れてしまうのかもしれない。
 
 壊れた、日常のカケラを拾い集めて泣く僕らは、ただの、FOOL(愚者)・・・






 やれやれ、と僕はため息をついた。
 しょうがないな、と思いつつも、笑いがこみ上げてきた。
「シリウスって、犬みたいだなぁ・・・」









 We are fool. So please... .









「何か言ったか?」
 くるりと振り返るシリウスの瞳に、険のカケラも見出せない。
「いや、今日の夕食、何かなーって・・・」
「お前はいつも食い気だけだな」
 失礼な。
 僕が眉間にしわをよせると、シリウスは笑った。
 そう、笑えるのに。
 僕は知ってる。シリウスは本当はすごく優しくて、暖かい。
 普通のマグルの世界にいる動物も、魔法生物も、彼のことを拒むモノはそうそうない。
 拒絶するのも、すべて、そのものを思ってのことだと、みんな知っているからだ。
 なのに、シリウスは笑わないし、冷たい。
 人間に対しては。いや、僕以外の、と言ったほうが正しいかもしれない。
 別におごっているわけじゃない。実際にそうなんだ。
 僕に対しては笑う。さっきみたいに。冗談も言うし、声を上げて笑ったり、触れてきたりもする。
その本質的な優しさを見せてくれる。
 なのに。
 他の人が話しかけても、そっけないし、むしろ冷たい。それこそ心の底から、全身で拒んでいるみたいに。
 近づくな、と見えない壁を築き上げているみたいに。
 なまじ綺麗な顔をしているし、スタイルもいい。作りものみたいにかっこいいから、そーいう態度はこの上なく恐ろしいものになる。
 もっと笑えば、もっと本当の自分を出せば、たくさん友達だってできるだろうに。
 でもそれは、僕が言うべきこのなのかわからない。言っていいのか、わからない。
 いいや、違うか。僕自身が、怖いんだ。彼に、拒まれるのが。
 だから僕は言わなかった。というより、言えなかった。
 あの日までは。



 その日、シリウスはいつものごとく全身から「近づくなオーラ」を出しながら、大広間で朝食、もとい朝コーヒーを飲んでいた。
 眠そうにしながらも、その雰囲気をかもし出せるあたり、さすがといおうか、褒められたことじゃないけど。
「一時間目、何だっけ?」
「・・・・・・・いち・・・じかん・・・・・・・め・・・・・・」
 ダメだ、こりゃ。
 僕の問いにいまだ覚醒しきっていない口と舌と頭でもって、彼はぼんやりと繰り返す。
「おーい、シリウス、起きてるかー?」
「・・・・・う・・・・・るさ・・・・」
 うなっているんだか、答えているんだか。僕が苦笑しつつ時間割を探そうとカバンに手をのばすと、ふと隣から声がかかった。
「一時間目は、変身術だよ」
「あ。ありがとう」
 その声には覚えがある。リーマス・J・ルーピン。
 また青白い顔しているなぁ。
 実は、僕らは結構仲がよかったりする。リーマスは、・・・なんていうんだろう。そう・・・うーん・・・すごく言い方に困るけど、なんていうか、すごく綺麗な人だと思っていた。見た目云々じゃない。中身が、ていうか、心が、すごく綺麗な人だと思う。
「変身術かぁ・・・じゃぁ、またレポートだな」
 大して時間はかからないとしても、面倒くさいものは面倒くさい。
「あ、リーマス、これから教室、直接行く?」
「うん。そのつもりだけど」
「じゃぁ、一緒に行こうよ」
 僕の特に何気ない申し出に、リーマスはひどく驚いた様子で、だけどすぐにうれしそうにうなずいた。


「・・・・・・・・・」
 隣から漂ってくるのは、殺気と言っても御幣はないかもしれない。
 リーマスは前回の授業に出ていなかったから、組んでいる相手がいなかった。今日は木製のゴブレットを、ガラス製のゴブレットに変える、という課題だった。マクゴナガルは僕の隣に座るリーマスを見て、僕とシリウスに、三人で作業するのように行った。僕はもちろん、二つ返事で了承した。もとからそうするつもりだったし。だけど、どっかのヘソ曲がりはそうではなかったらしく、さっきから一言も口を利かない。不機嫌そうに眉間にしわをよせ、ほぼ一人作業と化していた。
 どうやら、リーマスが気に入らないらしい。とっくに課題なんて終わっている。ガラスのゴブレットが蝋燭の火を鋭く反射しているのが目にいたい。
「シリウス?」
 僕が声をかけると、シリウスはゆっくりと振り返った。
 ・・・・・別人シリウス、降臨。
「・・・・なんだ?」
「なーにスネてんだよ?」
「・・・・別に」
 ふい、とそっぽを向く。
 リーマスが不安そうに、そして居心地悪そうにしているのが見なくてもわかる。
「あ、あの・・・ブラックさん・・・?」
 タイミング、悪っ!!てか、ブラック「さん」?!
 僕が思わず(たぶん)すごい顔をしてしまったその瞬間、派手な音を立てて何かが爆発した。
 見れば、シリウスが変えたガラスのゴブレット。
「ブラック?!」
 マクゴナガルの声が飛んでくる。問題児の行動はいつも見張っているらしい。
 くるぅりと、シリウスが振り向いた。
 冷たい、というより氷点下の銀灰色の瞳が、リーマスにすえられる。
 リーマス、固まる。
 たっぷり3秒。
 シリウスはリーマスをにらんでいたが、やがてふいと顔を背け、砕けたゴブレットに向けて杖を振った。いつもだったらすぐに元に戻るのが、今日はそうもいかなかったらしい。ただの溶けたガラスが固まりになったような、ごろんとした物体が出来、やはり溶けていたのか、テーブルに焼け焦げを作った。
「ブラック、怪我はありませんか」
 マクゴナガルが、シリウスが作ったガラスの塊に再度杖をふり、ついでにテーブルの焼け焦げも取り除いた。
 割れる以前のゴブレットが出現し、マクゴナガルがシリウスに怪我がないことを確かめると、気をつけるように言って、また別の生徒のもとへと行った。
 触らぬ神に、なんとやら。
 僕はリーマスに、これ以上シリウスを刺激しないように言おうとしたら、すでに遅かった。
「ぶ、ブラックさん・・・僕、何か、しましたか・・・?」
 鋭い音とともに、ゴブレットにヒビが入った。
 今度はこらえたみたいだ。
 シリウスは今度は無視することにしたようで、黙って杖を振り、ヒビわれを直すと(今度は溶けなかった)、今度はゴブレットを木製に戻した。安全性を重視したらしい。
 僕はリーマスに耳打ちした。
「シリウスは、ブラック性で呼ばれるのが嫌いなんだよ」
「え?そうなの・・・?」
 僕たちのひそひそ話に、またシリウスの殺気が増したような気がする。バキっと音がしたのでそっちを見たら、木製のゴブレットが大きな木のカケラになってバラバラになっていた。
 僕は頭を抱えながら、変身術の授業を終えた。









 リーマスもグリフィンドールだし、一年生で選択科目はないから、必然的にその後もリーマスと同行動になる。僕はどうしたものかとうなっていたのだが、それは杞憂に終わった。いや、新たな別の杞憂に変わったというべきか。
 シリウスが、姿を消したんだ。
「ジェームズ・・・僕のせい・・・だよね・・・」
 リーマスが不安げに尋ねる。奴が消えて、早4時間。というより、昼食も、今日の授業も全部終わってしまった。最初は「ほっとけほっとけ」とリーマスに軽い調子で言っていたが、僕も、いやさすがの僕も、怒っていた。
 だいたい、ブラックと呼ばれるのがイヤなら、ちゃんと言えばいいんだ。あんな目でにらみつけて、挙句の果てにはエスケープ(?)?!リーマスはすっかりしおれてしまっているし、夕食もはしはし進まない。
 僕は立ち上がり、大広間を後にした。どこに行くの?というリーマスに、忘れ物をしたから、すぐに戻るよ、先に寮に戻っていて。と彼がついてくるというのをやんわりと断り、僕は肩を怒らせて城から出た。
 さぁ、あのバカ野郎はどこだ。
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