はりぽた小説
□with you
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ハリーの心は、実に複雑だった。
うれしい反面、哀れだなと思わないでもなかった。
目の前の光景に、そっとため息を漏らした。
人当たりのよい笑みを浮かべ、最高級のマグルのスーツに身をつつみ、長くボサボサだった髪をさっぱりと切り落とし、非の打ち所のない姿の名付け親。
対峙するのは、いつものいたって「普通」の休日を楽しんでいた、ハリーの唯一の親戚。
青というより、紫色の顔が、3つ並んでいる。否、一つは見えない。親愛なる従兄弟は、彼の母親の背にかくれようとしつつ脇が左右ともにはみ出している。が、顔は見えないことに違いはない。
ことは、実は夏休み前から始まっていた。
w i t h y o u
「ハリー・・・これで私は、はれて無罪の身となった・・・君たちのおかげだ」
連行されていくピーター・ぺティぐリューを見送った後。ハリーに向き直り、ありがとう、と頭をさげるシリウス・ブラックに、ハリーは慌てて首を振る。
「そんなことないよ!それより・・・僕、何も知らないくせに、シリウスにひどいことを・・・」
そんな水掛論に、ルーピンは呆れつつ終止符を打たせた。
「ほらほら、二人とも。お互い、もっと言いたいことがあるはずだよ」
「「!」」
どちらからともなく、居心地悪そうに目をそらす。やれやれ、ルーピンは肩をすくめると、シリウスの肩をたたいた。
「な、なんだよ」
「名付け親の最初の試練だ。12年分のツケだと思いたまえ」
「な゛?!」
「じゃぁ、私は紅茶でも飲んでいることにしよう」
「お、おい!リーマス!!」
必死にすがりつくシリウスを、ルーピンはぺぃっと蹴飛ばしてはがすと、ひらひらと手を振りながら歩き去ってしまった。
「くっそ〜〜〜〜〜〜〜・・・リーマスめ・・・」
蹴飛ばされた頭をかかえ、シリウスはぶつぶつと文句を言った。
が、気まずい沈黙を打破すべく勇んで打ち放たれたその文句ともつかぬつぶやきでさえ、ふわふわと浮ついて漂っていってしまう。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
シリウスは、ごくりと喉を鳴らした。
俺が言わねば。
名づけ親、という肩書きが、ずしりと10トンくらいの鉄アレィに乗ってずっしりと肩にのしかかっている気がする。
俺が言わなければ。
俺は。
俺は・・・
メラメラと、シリウスの銀灰色の目に炎が宿った。
俺は、名づけ親なんだ―――!!!
シリウスは意を決し、ハリーに向き直り口を開こうとした。
「ねぇ、シリウス」
「っんぐっ!!」
勇み勇んでいたせいか。シリウスは変な音と共に空気を大量に胃に流し込むハメになった。
「な、何だろうか?!」
あぁ、どうしてだろう。
どうして、この子の前だとこう・・・き、緊張してしまうのか。
シリウスは犬に変身したくなった。穴があったら入りたい、とい心境に似ているかもしれない。
シリウスが一人悶々としていると、ハリーの次の言葉が耳に飛び込んできた。
「僕・・・本当にあなたと一緒に・・・行っていいの?」
Can I go with you?
with me .
「・・・本当に、君はそれを望んでくれるのかぃ?」
恐る恐るたずねたシリウスに、名づけ子は大きくうなずいた。
シリウスは思わず顔を手で覆った。ハリーが焦ったように歩み寄る。
「ど、どうしたの?シリウス・・・ごめんなさい、僕何か気に障ることでも・・・?!」
「いや、ごめんよ・・・違うんだ・・・」
シリウスは目を覆っていた手を外した。
「うれしくて・・・つい、ね・・・」
こんなにうれしいと思える日が、再び来るとは思ってもみなかった。
シリウスは、ハリーの頬にそっと触れた。
「家はある。屋敷しもべ妖精がいるはずだから、すぐに住めるだろう。ブラック家はもう俺しか残っていないから、気兼ねなどする必要もないよ、ハリー」
そこまで言ってしまうと、あとはもう早かった。
着々と計画は立てられ、シリウスが正式に無実となる手続きが終わり次第、すぐに迎えに行くということも決まった。