はりぽた小説

□Your Happiness, My Happiness.
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「なぁ、ハリー」
 ある昼下がり。
「何?」
 まるいテーブルの上には、スコーンとマーマレード、そしてジャムの瓶が並び、入れたてのダージリンの紅茶が香り豊かな湯気を立てる。
 名づけ子は、シリウスの呼びかけに応じるように、手にしていた紅茶のカップをテーブルに置いた。
 コトン、と小さな朝と呼ぶには少々遅いが、静かな空気の中で転がるように響いて余韻を残した。
「君は、今、幸せかい?」













 Your Happiness, My Happiness.











「どうしたの?いきなり・・・」
 確かに、唐突だったかもしれない。
 親友そっくりの顔で、親友そっくりの表情で、親友の息子はきょとんとして問い返した。
「いや・・・ふと、思って・・・」
「シリウスは、僕が幸せじゃないと思ったの?」
 その瞳。
 その瞳だけは、親友のものじゃない。
 親友の最愛の人の、それ。
 緑色の瞳が、くるんと動く。
「い、いや、その・・・なんだ。俺は、君に今まで何もしてあげられなかったから・・・君に、なんでもしてやりたいと思うんだよ・・・」
 昔だったら、絶対に言えないようなセリフ。
 俺も老けたものだ。
 そんなことをつらつらと考えながら、シリウスはハリーを見つめた。
「そんな・・・そんなに特別に何かしてくれなくてもいいのに・・・」
 困ったようにかすかに俯いたハリーに、シリウスは少々慌てた。
 困らせてしまった。
 まずった。
 しくじった。
 大体、まだともに暮らし始めて日が浅い。
 お互い、手探りの状態なのだ。
 そこに、こんな会話の糸口はまずかっただろう。
「あー・・・っと・・・」
 次の言葉が継げず、シリウスはゆらゆらと視線を漂わせた。テーブルの上に放り出してあった日刊預言者新聞の一面の、ファッジの小太りの尻が、あたふたと動き回るのを虚ろに眺める。
「あのさ、シリウス」
「な、なんだ?!」
 そんなところでのハリーの声に、シリウスは飛び上がらんばかりに背筋を伸ばしハリーを見た。
「シリウスはさ、一つ、誤解してるよね」
「誤解?!」
 なんだろう。
 なんだろう。
 誤解。
 誤解だと?!
「な、なんだ?!何でも言ってくれ!!」
 ハリーにしがみつきそうな勢いのシリウスに、ハリーは照れくさそうに笑い、言った。
「そうだよ、誤解だよ」
「直す!今すぐ改める!!言ってくれ!!!」
 必死のシリウスに、ハリーは笑って言った。
「だって、シリウス。僕、今、あなたと一緒に過ごせることが、何より幸せなんだよ」
「!」
 シリウスは、固まった。
「特別なことなんて、何もいらない。僕、ここであなたと一緒に住めて、一緒に買い物に行って、一緒に夕飯はなんにしようか、って考えて、一緒にご飯作って、一緒に食べて、一緒に他愛ない話をすることが、何より幸せなんだ」
「・・・!」
 シリウスは、目頭が熱くなった。
「だから今、僕はこの上なく幸せなんだよ、シリウス」
「ハリー・・・!」
 そしてハリーは、少し顔を曇らせた。
「でもそれが、シリウスにとっての幸せか判らないから・・・シリウスが幸せになれることなら、僕、なんでもするよ?」
 ゆらりゆれる紅茶の湯気。
 薫り高いダージリン。
 それが、何故だかとても心地よく香った。
「シリウス、シリウスは今、幸せ?」
 ハリーはかすかに首をかしげて、たずねた。
 シリウスは、どうしたらこの喜びを伝えられるだろうかと悩みつつも、こう言うしか、できなかった。
「人生で一番、幸せだよ」

 二人で笑う。
 また距離が、縮まる。
 あなたの幸せ。
 僕の幸せ。
 君の幸せ。
 俺の幸せ。
 みんな幸せ。

「幸せって、幸せだね」

 さぁ、今日は、何をしようか。





fin...
日常が一番の幸せだと感じられる。
そしてその幸せを幸せだと感じられる。
これが、一番の幸せだと思うんです。

なーんて、ね。
こんな生活を私は夢見て(以下略

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