銀魂小説 弐

□写真
1ページ/1ページ

――――いよいよだな。

――――…ああ。

――――先生の遺志を、継ぐ戦いだ。

――――なァ、ヅラ。

――――ヅラじゃない、桂だ。何だ?

――――…お前、本当に大丈夫か?

――――何を今更。死ぬ覚悟ならとうにできている。

――――違くてさ…てか、死ぬなバカ、気が早ぇよ。

――――ではなんだ?

――――桂、お前、戦場って見たことあるか?











       写真












楽しかったり、うれしかった思い出というのは、人間は忘れるものらしい。その代わり、嫌だったり、憎かったり、痛かったりという負の感情を抱くような出来事は、なかなか忘れないらしい。

桂は、それを知っていたはずだった。

松陽の亡骸を、いまだに鮮明に覚えているのだから。

なのに。

「後悔、してるか?」

 何をつかもうとしたのだろう、この手は。

 空に向かって、何かを求めるように手を伸ばして絶えている仲間。その手は、今や桂の足をつかもうとしているようにしか、桂には見えなかった。

「………」

「戦場ってのは、こんなんばっかだ」

 あたりから煙が立ち上り、赤い空は燃えているよう。

 ぶつかるために張り詰めながら過ごした夜は数知れず、そして迎えたぶつかるときは、ほんの二刻ほど。

「もう、やめるか?」

 おどろくほどやさしく温かく、穏やかな声。

 桂はかがみこむと、伸ばされた手を握ろうとした。

 叶わなかった。

 風に溶けるように、その手は崩れてしまった。

 しかし、桂の目では、まだその手は相変わらず桂の足をつかもうと突き出されたままだ。

 あぁ、こういうことか。

 新たに実感する。

「お前は、戦場がどういうものか、知っていたのか?」

「…知ってた」

「なぜ?」

「流れていれば、戦場なんぞいくらでも見る」

「なぜ、教えてくれなかった…?」

「こればっかりは、教えられるモンじゃねェ」

 頬をなでる風邪は生暖かく、血と煙の匂いをしつこいほど引きずっている。

「それともお前、俺が教えていたら、やめていたか?」

 桂は立ち上がった。

 生き物の残骸が散らばる焼け野原を見、振り返る。

 かぶりをふった。

「…心の、準備にもならんだろうな。見たものにしか解るまい…」

「だろ?」

 差し出された手をとった。

 仲間の死体を、連れ帰ることはできない。

 きりがないからだ。

「お前が、やってやれ」

 こくんとうなずき、桂は生き残った仲間が先ほど撒いていった油目がけて、火を投げた。

 轟と音がして、あたりは一気に緋に染まった。

「…すまない…」

「誰もお前を恨んじゃいねぇよ」

「…謝らせてくれたって、いいだろう」

「ダメ」

「……そうか……」

 ふとわらい、桂は炎に背を向けた。

「ならばその志は、俺が継ごう」

「なるほど」

 足音が、動き出す。

「銀時、やめたくばやめても良いのだぞ」

「ヅラのお守りがあるからよ」

「ヅラじゃない、桂だ」

 炎だけが、生きている。





―――― 一生、それを引きずって生きていくんだ。

――――写真みたいに、覚えてる。

――――どこに傷があったかとか。

――――どんな天人がいたかとか。

――――どんな格好だったとか。

――――どこのパーツが、足りなかったとか。

――――天気とか。

――――風とか。

――――温度とか。



そこだけが、ぽっかりと写真のように。



魂に刻まれた、写真。











Fin…
模試のペーパーの裏にびっちり書いた奴(え

では、お読みくださりありがとうございました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ