銀魂小説 弐
□写真
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――――いよいよだな。
――――…ああ。
――――先生の遺志を、継ぐ戦いだ。
――――なァ、ヅラ。
――――ヅラじゃない、桂だ。何だ?
――――…お前、本当に大丈夫か?
――――何を今更。死ぬ覚悟ならとうにできている。
――――違くてさ…てか、死ぬなバカ、気が早ぇよ。
――――ではなんだ?
――――桂、お前、戦場って見たことあるか?
写真
楽しかったり、うれしかった思い出というのは、人間は忘れるものらしい。その代わり、嫌だったり、憎かったり、痛かったりという負の感情を抱くような出来事は、なかなか忘れないらしい。
桂は、それを知っていたはずだった。
松陽の亡骸を、いまだに鮮明に覚えているのだから。
なのに。
「後悔、してるか?」
何をつかもうとしたのだろう、この手は。
空に向かって、何かを求めるように手を伸ばして絶えている仲間。その手は、今や桂の足をつかもうとしているようにしか、桂には見えなかった。
「………」
「戦場ってのは、こんなんばっかだ」
あたりから煙が立ち上り、赤い空は燃えているよう。
ぶつかるために張り詰めながら過ごした夜は数知れず、そして迎えたぶつかるときは、ほんの二刻ほど。
「もう、やめるか?」
おどろくほどやさしく温かく、穏やかな声。
桂はかがみこむと、伸ばされた手を握ろうとした。
叶わなかった。
風に溶けるように、その手は崩れてしまった。
しかし、桂の目では、まだその手は相変わらず桂の足をつかもうと突き出されたままだ。
あぁ、こういうことか。
新たに実感する。
「お前は、戦場がどういうものか、知っていたのか?」
「…知ってた」
「なぜ?」
「流れていれば、戦場なんぞいくらでも見る」
「なぜ、教えてくれなかった…?」
「こればっかりは、教えられるモンじゃねェ」
頬をなでる風邪は生暖かく、血と煙の匂いをしつこいほど引きずっている。
「それともお前、俺が教えていたら、やめていたか?」
桂は立ち上がった。
生き物の残骸が散らばる焼け野原を見、振り返る。
かぶりをふった。
「…心の、準備にもならんだろうな。見たものにしか解るまい…」
「だろ?」
差し出された手をとった。
仲間の死体を、連れ帰ることはできない。
きりがないからだ。
「お前が、やってやれ」
こくんとうなずき、桂は生き残った仲間が先ほど撒いていった油目がけて、火を投げた。
轟と音がして、あたりは一気に緋に染まった。
「…すまない…」
「誰もお前を恨んじゃいねぇよ」
「…謝らせてくれたって、いいだろう」
「ダメ」
「……そうか……」
ふとわらい、桂は炎に背を向けた。
「ならばその志は、俺が継ごう」
「なるほど」
足音が、動き出す。
「銀時、やめたくばやめても良いのだぞ」
「ヅラのお守りがあるからよ」
「ヅラじゃない、桂だ」
炎だけが、生きている。
―――― 一生、それを引きずって生きていくんだ。
――――写真みたいに、覚えてる。
――――どこに傷があったかとか。
――――どんな天人がいたかとか。
――――どんな格好だったとか。
――――どこのパーツが、足りなかったとか。
――――天気とか。
――――風とか。
――――温度とか。
そこだけが、ぽっかりと写真のように。
魂に刻まれた、写真。
Fin…
模試のペーパーの裏にびっちり書いた奴(え
では、お読みくださりありがとうございました。