銀魂小説 弐
□この胸を満たすもの
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桂は、怒り狂っていた。
「おーいーヅーラー」
「銀よォ、テメー、黙んねーと殺すぞ」
銀時が桂に声をかけると、今度は別の声。こちらも、並々ならぬ殺気を放っていらっしゃる。
高杉も、キレていた。
「たか……」
「銀時ィ、おんしゃちーと黙っちょれや」
坂本も、いや、あの坂本も怒っていた。銀時呼ばわりするほどに。
味方がいねェ、いや、味方ってーと味方だけど…アレ?何だ?なんかよくわからなくなっちまった。
銀時は、参ったな、とぽりぽりと頭をかいた。
「だァら、俺は気にしてないって…」
「貴様は腹が立たんのか?!」
桂、高杉、そして坂本がキレる理由となった出来事は、つい先ほどのことだった。
先日、文がとどいた。
もう、ほんの数名しか残っていない部隊が、桂たちの軍に合流させて欲しいと願い出る文だった。
もちろん桂は他の者に相談の上、それを喜んで迎えるという返事を出した。
そして、やってきた。ついさっきのことだ。
出迎えた桂たちに、やってきた部隊の隊長、森村と名乗る侍は、感謝の意を述べた。
そこに、銀時が現れた。銀の髪に驚き、赤い眼だ、と森村たちの間にささやきが走った。
ここまではよかった。まだ、ここまでは。
桂が銀時を紹介すると、森村は叫んだ。
「何故天人を排しようとする貴殿らが、天人と共に行動しているのだ?!」
「森村どの、銀時は天人ではない」
「貴殿はだまされているのだ!この我が、正体を明かし成敗してくれる!!」
そう言って、森村は銀時に斬りかかったが、あっけなく刀を抜かれないまま、銀時に跳ね返された。
「森村どの、やめろ!!」
「テメェ何しやがる!!」
桂、高杉が主立って森村の部隊と森村本人を取り押さえ、坂本が銀時を座敷の奥へと連れて行った。
その跡もさんざん桂・高杉VS森村一派という戦いは続き、坂本のとりなしで、とりあえずは幕を閉じ、今に至る。
「ヅラぁ、叩きだせ」
「俺とてそうしたい」
高杉の不穏な言葉に、桂はお約束のセリフも忘れて同意する。
「ヅラぁ、例のセリフ忘れてんぞー」
「「天パは黙ってろ」」
2人にすごまれ、銀時は少なからず縮んだ。
「もう寝る」
高杉が、腰の瓢箪を干しながら、憮然とした表情のまま宣言した。
「坂本、高杉が、連中に夜襲をかけぬよう、見張っていてくれるか?」
「その方がええじゃろのー」
2人が出て行くと、そこには2人が残された。
「……ヅラ?」
「何だ」
やっぱ、いつものセリフ忘れてる。
銀時は、座ったまま桂のそばににじり寄った。
「………」
「……俺には、何故貴様が怒らんのかがわからん」
背中を向けたまま、桂は言う。
「…今始まったことじゃねーもん。それに、あいつらだって、天人ゃ散々仲間を殺されたんだ。お前だってあーいう反応、わからなくねェだろ」
「そういう問題じゃないだろう!!」
がばりと振り返り、桂は銀時の胸倉をつかんだ。
「何が成敗してくれる!だ!!あやつごときに敗れる銀時ではないわ!!おこがましいにも程がある!!」
「ちょ、ヅラ?」
「何が天人だ、何が成敗だ!あやつとて年をとれば白髪だ!その前にハゲるわ!!」
がくんがくんと胸倉をつかまれたまま、銀時は桂に揺さぶられる。
「ちょ、待てよ桂…」
「桂じゃない、ヅラだァァァァ!!!あ、間違えた桂だァァァ!!!」
勢いに任せたアッパーカットを食らった銀時は、思わず怒鳴り返す。
「せっかく人がカツラって呼んでんのに、もうテメーがソレ否定してんじゃねーか!!」
「今のイントネーションは違うぞ?!桂であって鬘ではない!!」
「知るか!!西と東じゃイントロダクションは反対なんだぞ!!」
「イントロダクションじゃない、インフォメーションだ!!」
「なんかソレ、違くね?!」
銀時は、桂の手首をつかみ、そのまま押し倒した。胸を合わせて、覆いかぶさる。
「……いいんだよ……」
「良くないっ!」
「いーんだって」
桂の言葉をのみこむようにして、銀時はつぶやいた、。
「…お前が、怒ってくれたからもういい。お前らが…」
一旦言葉を切って、銀時は桂の首筋に顔をうずめ、そのまま言った。
「…俺を、かばってくれたから、俺はもう、いいんだ…」
銀時は、背に手が回されたのを感じた。右手が、背筋を伝って、首をとおり、頭――髪へ。
「当たり前だろーが…」
桂の手が、いとおしげに髪を梳いた。
「銀時…」
「んー?」
銀の髪をなでながら、桂は銀時の名を呼んだ。
「…お前は、人間だよ…」
「……ん……」
銀時は、なんともいえない胸の疼きを感じた。
「まぁ、俺にしてみればお前が天人だろうが、鬼だろうが、関係ないのだがな」
「……へェ……」
暖かく、それでいてゾクゾクする感覚。
「…桂…」
ぎゅ、と桂の体を抱きしめる。その下で小さく抗議の声があがった。
「銀時、重い…せめて横にズレろ」
「……コタ……」
「………やれやれ………」
自分を下の名前で呼ぶときは、この鬼のように強い男がほんの少しの弱みのカケラを見せているときだ、と知っているから、桂はそれを流せない。
「あと5分だけだからな」
結構自分が、堪えていたのだと知りながら、銀時はその声を聞く。
「慣れすぎてた…」
「…?」
桂の体温を全身で感じながら、銀時は続ける。
「公然と敵意とか殺意を、こっちが何もしてない、何も思ってない相手から受けることがない状況に…さ…」
「…銀時…」
「…コタぁ…」
一層深く、桂の首筋に顔をうずめる。胸が、温かいもので満たされていく。
「何だ?」
どうしてこんなに、この声は優しく、暖かく、そして甘いのだろうか?
新しく、生きていける力をもらえる気がした。
「…俺、お前らにあえて…ほんと…よかった…」
桂はふと笑い、あやすように銀時の背を叩いた。
「俺もだ銀時…。俺たちはみな、お前の味方だ。お前を傷つける奴は、俺が…俺や高杉や坂本が、許さぬよ」
銀時は思う。
生まれてきてから、感謝なんかしたことないけど、神様。
こいつらと、出会わせてくれたことだけは…感謝します…。
翌朝。
桂と銀時が起き出し、朝餉を取るべく集会室にいくと。
「坂田さんッ!昨日は、申し訳ありませんでしたァァァァ!!!!」
森村一派の、土下座で迎えられた。
あまりのことにしどろもどろになる銀時と、いち早く、何事もないように朝餉の味噌汁をすする二人を見る桂。
「よぅヅラぁ、お早うさん」
「遅いぜよーヅラぁ。味噌汁が冷めてしまうきに」
やけに機嫌のよい二人に、桂はため息で応じる。
「ヅラじゃない桂だ。…貴様ら何をした?」
じろり、と桂が軽くにらむと、坂本が答える。
「高杉を抑えるのが大変じゃッたぜよ」
「テメー何言ってやがる。テメーもずいぶんやったじゃねーか!」
「先に仕掛けたんは高杉じゃー」
「つまり」
額に青筋を浮かべ、桂はゆっくり言葉をつむぐ。
「二人して夜襲をした、と?」
「まァ、いいじゃねーか」
「結果オーライっちゅーやつじゃ」
「…………」
桂は土下座されて困っている銀時を手招きし、ふと笑う。
「……よくやった」
「まァ、な」
「当たり前じゃー」
「やれやれ、何?あいつら夜中に頭に隕石でも喰らったの?」
つかれたように自分の横に座る銀時に、桂は言う。
「あぁ、二つほどな」
「……そりゃおっかねー隕石だ…」
「銀時」
「?」
桂は、銀時の肩に手を乗せた。
「言ったとおりだろう?」
お前は、独りじゃない。
「…あぁ…!」
そのときの銀時の笑みを、桂は一生忘れないと思った。
Fin…
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日本中の森村さん、申し訳ありません。
こういう友人には、なかなかめぐり合えないものです。
銀さんはたぶん、そういうことを人一倍知っている人だと思います。
ふと、追い詰められたとき、それを助けてくれる誰か。
一人じゃない、と、自分と一緒に、もしくは代わりに怒ってくれる誰か。
そんな誰かを、人は探し続けて、そして見つけられずに、さまよっているのだと思うのです。
多少というかかなり詩祇の世の中に対する理想が入っとりますが、物語ってのは、理想を求めて書く、または読む物だと思うのです。
では、お読みくださり、ありがとうございました。