銀魂小説 弐

□傲慢な俺たちは
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「桂さん!」

 血相を変えて、党員が飛び込んできた。

「どうした?」

 作戦はすでに昨日の晩に完成し、すでに実行に移っている。

 つぶすべき敵の本拠地を叩く今回の作戦では、出張班のような小部隊の存在がネックだった。

 そこで、先発隊として高杉率いる鬼兵隊が小部隊を足止めしつつつぶし、それと同時に本拠地を坂本率いる部隊が裏から攻撃、そこを遅れて桂・銀時率いる本隊が坂本たちと挟み撃ちをするというものにした。

 すべてがその通りに動かねばならない、綿密な計画。

 失敗すれば、共倒れ。

 嫌な緊張が高杉、坂本の部隊を欠いた本隊に漂っていた。

 そんな中の声だった。

「何かあったのか?」

 喘ぐ党員に、桂が声をかける。銀時は黙って党員を見た。

「敵の小部隊が予想以上に多く、援軍も投入された模様です。鬼兵隊が、壊滅の危機です!!」

「「!!!」」

 す、とつめたいものが背筋を駆け下りる。それは誰も同じだったようだ。

 しかし今鬼兵隊救出に動けば、今度は坂本軍が取り残された形となる。高杉をとるか、坂本を取るか。

 そんな、なんとも言えない雰囲気が部隊を覆う。

 党員たちは、おそらく桂と銀時が二手に分かれるだろうと考えた。実際、それが一番妥当に思える。

 そして、桂の言葉を待った。

「……そうか」

 桂はただつぶやき、銀時は何も言わなかった。言えないのだと、知らせに来た党員は思った。だから、助け舟を出そうと自分から言い出してみる。

「すぐに、鬼兵隊に援軍を!」

 それに桂は間髪入れずに短く応えた。

「いや」

 それを、今まで黙っていた銀時が継いだ。

「このまま、坂本の合図を待つ」

 沈黙が、部隊を覆った。

 今、なんと言った?

「鬼兵隊に援軍は送らない」

 少し遅れて、口々に、党員たちが騒ぎ出した。

「鬼兵隊を、高杉さんを見捨てるのですか?!」

「…………」

 無表情で、銀時は桂を見た。桂も同様に銀時を見る。

「見捨てやしねェよ」

「では、どうして…?」

 銀時が、桂の肩をぽんと叩き、一言だけ、言った。

「あいつは、死なねェ」

 叩かれた肩に手をやり、銀時の手を上から握る桂が、言葉を足していく。

「今俺たちが二手に分かれて援軍という形で向かったところで、目的達成はおろか、かえって軍の全滅を招きかねん。それに、高杉は死なん」

「そんな自信どこから……っ?」

 そのとき。

 一つ、花火が遠くの空を彩った。

 坂本からの合図だ。

「動くぞ。半刻で片をつける」












「急ぐぞ!」

「わぁってる!!」

 目の前の天人を、人間を、ひたすら切っていると、桂が隣にいた。

「テメー、どっから来たんだよ?!」

「知るか!貴様こそどこから涌いた!!」

「俺はウジじゃねェ!!」

 自然、お互い背中を合わせる形となる。

 進撃を始めてから、初めて動きをしばし止めた。

「っは!向こうさん、数だけはいやがるんだな」

「ウジのようだな」

「テメー、今俺のことウジにたとえなかった?」

 一息ついて、ほぼ同時にまた刀を振るう。

「そういや、バカ本は見たか?!」

「いや、見てねェ!!」

「どこにいるのだ、あのアホは!!」

「その辺にいんだろ、あの馬鹿のことだから!!!」

「馬鹿はひどいのぅ!!金時ィ!!ヅラァ!!ここじゃここじゃァ!!!」

 銀時がまた天人を切り倒しつつ叫んだとき、坂本の声が爆音と喧騒の中から届いた。

 新たな天人に刀を深々と差し込みながら、桂が叫ぶ。

「ヅラじゃない、桂だァァァァァ!!!!!」

「バカ本がァァァ!!!俺が金時だったらテメッ、ジャンプ回収騒ぎだぞ、新聞が困っちまうぞこの毛玉ァァァァ!!!!!」

「ほうじゃったかの――――?!」















 落ち着きを取り戻し始めつつある音の海の中、静寂の気泡にたゆたいながら、三人はいた。











「作戦はとりあえず成功だ」

「…じゃ、もいっちょ、いくか」

「ほうじゃの」











 ともすれば消えそうになる意識の火を、本能だけでともし続けているような気がした。



 花火を見た。

 

 作戦は、うまくいっているようだ。

 こっちの情勢は不利に違いなかったが、少なくとも本拠地への援軍など送る暇はなかったろう。この小部隊に差し向けられた援軍も、高杉たち鬼兵隊のねばりの戦いで、思い通りにいかずあせりの色が見え始めてすでに久しい。



 新たな熱を持ったような痛みが肩に走る。

 そろそろ、体力的にも限界が近いのだろう。



 死なない。

 死ねない。



 おれは しなない。



 また一人、どう、と倒れた天人の死体を押しのけて、迫り来る新たな天人の群れをにらみつけた。



 銀時も、桂も坂本も。

 死なない。

 あいつらは、死なない。

 だから俺も、死ねない。

 根拠のない自信といわれればそうだろう。だが、やつらも、高杉のことをそう思っているに違いないのだ。

 だから、死ねない。

 そして、死なない。



 死ぬつもりもないし、まだ生き残って闘っている鬼兵隊の隊員たちもいる。

 死ぬわけには、いかないのだ。

 が。

「……疲れンぜ……」

 それにしたって、法外な数だろう。

 それに、どこかさっきから雰囲気が違う。

 あせりが消え、代わりに、憎しみと、意固地なほどの殺意が満ち始めた。

 それを感じて、高杉は独り笑んだ。



 作戦は、成功したらしい。



 援軍は来なかったし、もともと来ないと解っていた。

 べつに見捨てられたとか、そんなことは思っていない。

 自分を、信じてくれているのだと解っていた。

 だから、最後の一人となろうとも、立って、闘い続けるのだ。



 意を決して、刀を握り直し力の抜けかけた右手に力を込めた。

 右足を、踏み出す。

 そのときだった。



「どけどけどけどけどけどけどけ―――――――――――!!!!!」

「?!」

 向かってくる天人が、後ろから崩れていく。その中にひらめいた、白。

「高杉ィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

「生きてなかったら殺すぞォォォォ!!!!」

「どこにばおる――――――――――?!」

 天人の群れの中から躍り出た三人を見て、高杉は笑った。

「うっせーよ!!死んでたら殺すって、死んでんのにどーやって殺せんだバカが!!」

 叫んでから、振り返る。鬼兵隊の生き残ったものたちに、うなずいた。

「突っ込むぞ!!!」

 おう!と気合が返ってきて、高杉は走り出した。







 疲れを忘れた。





「テメーら、作戦はうまくいったんだろーな?!」

「あたぼうよ!!そんでもって手ェあまったから暇つぶしに来たんだよ!!」

「どうした貴様、野良犬にでも追いかけられたのかそのナリは?!」

「せーよ黙れヅラ!!アレだ、蚊に刺されたんだよ!!」

「そんなでかい蚊がいるかァァァァ!!!!!」

「んだよ、いるじゃねェか!!便所によくいるやつ!!」

「ありゃァカトンボじゃァ高杉、アレは血は吸わんぞ!!!」

「それはそうと、今日の風呂当番高杉な!!!」

「はァ?!」

「夕食当番もじゃァ!!」

「んだとテメーら!!何で俺が?!今日の当番は茨城だろうがァァァ!!!!」

「だってホラ、時間外労働だしさ、コレ」

「てンめェェェ!!!殺すぞコラァ!!!!!」

「あ、晋ちゃん、饅頭とイチゴ大福買ってきてー」

「そこの天人!!その白髪天パを殺せ!!!!」

「シャレにならんぞ、高杉ィィィ!!!」

「アッハッハッハッハッハ―――!!!」









「あーあ」

「疲れたな、さすがに」

「テメー誰が一番疲れたと思ってんだコラ」

「俺」「俺」「わし」



 ふー、と煙管の煙を吐き出し、高杉は鼻を鳴らした。







「いっぺん死ぬか、コノヤロー」







 何よりも重い足枷だと思う。

 好きなときに死ねないなんて、なんて傲慢で、厄介で、忌々しい足枷かと。



 それでもこの足枷は、暖かく、そして心を軽くする。

 力を与えてくれる。

 この足枷があるから、今、自分が生きているんじゃないかと思う。

 



 忌々しい、足枷だ。









 四人で空を見上げた。

 アジトの屋根の上。





 広がるは、奇しくも、船ひとつない、青い空。




fin...
こんな関係だったらいいなー・・・
アニメツアー行きたかった・・・!!


お読みくださり、ありがとうございました。  

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