銀魂小説 弐
□言わせて欲しい、ことば
1ページ/2ページ
「何?」
戦闘はしばらくないだろう。
そんな予測が立つほど、しばらく天人たちの動きは皆無に等しかった。
雀の子供が、ようやく巣立ちをしたのだろう、隠れ家の庭先で地をつついている。虫でも捕っているのだろうか?あんな砂利の中に、そんなに虫がいるとは思えないが。
その雀の子供たちが、そんな中の声にぴくりと顔を上げた。
「それは確かなことか?」
「はい、密偵よりの連絡です」
桂は、党員の言葉に唇をかんだ。
「最悪のタイミングだな」
桂は、自室に入った。
知らせは、最悪のものだった。
武器弾薬の仕入れは、商家である坂本の実家が主に手引きしてくれている。新たな補充分を、坂本は小部隊を連れて受け取りにいっていた。受け取りは無事すんだらしいが、隠れ家への帰り、天人からの襲撃があった。そんな内容。
さらに最悪なことに、今、銀時も高杉もいない。
今ここにいる者だけで救援に向かうしかないだろう。
銀時も高杉も、それぞれ部隊を率いて敵情視察やら同志集めやらをしているはずだ。ちなみに桂は、経理をやっていた。
銀時らに早馬をだして早く帰るよう言うことはできるだろうが、いつになるかわからない。だいたい目立つことはそれぞれの破滅を招きかねない。どこにいるかを確実にわかっていなければ、密偵に伝令を頼むことも難しい。時間がどれだけかかるかわからない。
隠れ家の上空に合図ののろしを上げるなどはただのバカだ。
しかし、迷っているヒマはない。
武器弾薬の受け渡しなど、よく狙われる局面であるし、また狙われたときに坂本の実家に迷惑がかかる。だからあえて坂本は、荷を運ぶために必要な最低限の人数だけを連れて行ったのだ。
武器の類は受け取ったばかりで不自由はしないだろうが、人数が少なすぎる。
桂は、党員に出撃の旨を伝えた。
「や〜・・・難しいのぅ・・・」
かくれた洞窟に荷を隠し、坂本は額の汗をぬぐった。
「冷や汗が流れて来ちゅう・・・」
「坂本さん・・・」
連れてきた党員が、坂本を見る。
外では、姿こそ見えないが自分達を探す天人の声が聞こえる。
声が届く範囲にいるということだ。
なかなか、まずい状況だ。
桂たちに知らせるすべは、今の自分達の居場所を天人どもに知らせるに等しい行為であるし、桂たちに、自分たちで何もしないうちから頼り切る気はさらさらなかった。
自分達で活路を見出す。
それが、暗黙の了解なのだ。
かといって、この人数でひたすら突っ込む、という戦い方が可能か、と問われれば笑って否と即答できる。
「どーするかのー・・・」
頭の中で策を立てるも、どれも何かがかけているようで最悪に思える。
要は、良い策がないのだ。
策なしで動くほどばかげたことはない。しかしいつまでもここに隠れていられる保障などはなく、できればこの荷はやつらの手になど落とさず桂たちに渡したい。それが適わないのであれば、自らの手ですべて破壊する。もちろんありったけを奴らにお見舞いしてからだが。たとえ自分が果てたとしても、仲間に余計な危険やその要素を増やしたくなどない。
「ここを陣に、一戦ばかます。まァあり得んじゃろうが、このまま奴らに気づかれんかったら、それはそのままやりすごす。臨戦態勢だけは取っちょけ。大砲と小銃ば、用意しちょけ。音ば立てるな」
坂本のささやくような命令に、党員たちは音もなく動いた。
各々が刀を抜き、大砲の弾を込め、息を殺し時を数える。
次の瞬間、見つかるか。
それぞれの息遣いまで聞こえてきそうな静寂の中、己の心音と呼吸だけがやたらと大きく聞こえる。
天人どもの草を踏み分け枝を折る音が聞こえる。
そして。
「・・・?」
不意に、足音が遠ざかっていく。ほっと胸をなでおろす党員に、坂本は叫んだ。
「大砲、撃てェェェェェ!!」
条件反射で大砲を放つ者と、耳をふさぐ者。しかし撃ったあとの目には、猜疑心があらわにされていた。
「休むな、目の前におるぞ!!」
その言葉に、一気にその場の空気が張り詰める。
続けざまに鳴る大砲と、天人どもの悲鳴。
そしてその煙と火薬の匂いの中に、別の匂いが混じりだした。
天人の、血の匂いだ。
「小銃、構えェ!!」
ジャキ、と聞きなれた音。
「撃てェェェェ!!!!」
もうもうと吹き上がる爆煙の中、その姿をちらりと目にした坂本は、叫ぶ。
体中の全神経を逆立てる。自分の一瞬の判断で、すべてが始まりまたすべてが終わる。
自分ひとりで敵に突っ込むほうが、命令される側にいない限り、絶対に気が楽だと思う。
「今じゃ!大砲ばもう一発!!」
天人の群れなぞ、いくらでもいる。
どれだけたおれても、またすぐに涌いてくる。
高杉が、「ゴキブリの方がか弱く見える」と言っていたのをふと思い出した。
耳をふさぐとすぐに、爆音がした。
さぁ、次の手は?
誰に問おう?そして誰が応えよう?
迷っているヒマはない。
一瞬で始まり、そして一瞬で終わる。
今、ここでのその二股に分かれた道を、どちらへ進むか決めなくてはならないのは、他でもない自分なのだ。
さぁ、どうする?
いつも、隣にいてくれる存在たちが、今この瞬間欲しかった。
目を見返してくれる、それだけでいい。
自分の考えを、それを「俺も同じだ」と目でもって伝えてくれる存在が、ほしかった。
「・・・・・次の大砲ばブッ放したら、出るぞ」
「・・はい・・っ!!
党員の顔に浮かぶは、恐れだろうか、それとも、覚悟だろうか。
スゥ、と息を吸い込み、刀を握り締め、坂本は叫んだ。
「大砲、撃てェェェェ!!!!!!!」
爆音。
間。
「突っ込めェェェェ!!!!」
うぉ――!と雄たけびを上げて、坂本たちは洞窟を飛び出した。もともと居場所がバレてしまったら、こんな袋のねずみにあえて己からなるような場所には隠れていられない。奴らが大砲を持ち出すまでが限度だったのだ。そして坂本は見たのだ。爆煙のかげの、その、醜い姿を。
「?!」
突然の坂本たちの行動は、天人たちの予想とは違っていたらしい。明らかな動揺が見て取れた。
「奴らはひるんじょる!畳み掛けェェェ!!!!」
応!といらえる声。しかしいつまでも、天人どもも呆けていてはくれなかった。
大将と思われる天人の、意味の解らない叫び声に、天人の群れが一気に動き出す。
穴の中にいたほうが、よかったか。
そんな考えがふと頭をよぎるが、それを即座にうち捨てる。
ムリだ。洞窟に大砲をぶち込まれてすべて終わりだ。
しかしもう、策だの何だのと言っている状況ではない。
あとはもう、斬って、斬って、斬って、そして斬るだけ。