銀魂小説 弐

□道
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道でおいかけっこして。

 からかって、追いかけさせていたあいつは。

石に躓き、派手に転んで。

 痛い、痛いと泣いていた。

 あの時は知らなかった。

「大丈夫か?」と、罪悪感と一緒に差し出した手を、まさか、取ってくれなくなる日が、来るなんて。





『鬼兵隊、壊滅』

 号外として派手にばらまかれた新聞を拾う。

 背筋を伝う寒いもの。

『鬼兵隊隊士の生き残りを捕らえることに成功。京、二条川原にて、本日午の刻、悉く是を斬首に処す』

 太陽はまだ頂点に昇ってはいなかった。しかし、今自分が潜んでいるこの小さな町のあばら屋にもならないような場所から二条川原まで、どんなに急いでも二刻はかかる。

 間に合わない。

 たった一言の現実だけがずっしりと胸にのしかかりつき刺さる。それでも、走り出さずにはいられなかった。

「高杉・・・っ!」





 もう無情な太陽は傾いてしまった。

 傾けた杯から血が流れていくように、もう、鬼兵隊の血は流れつくしてしまっただろう。

 川が見えた。

 台と、立て札が見えた。

 並べられた、見知った顔が見えた。

 人影が、見えた。

 涙は、見えなかった。

 後姿だけが、血の海のような世界の中で忽然と黒く浮いていた。



「た・・・か・・・・すぎ・・・っ!」

 喘ぎながらその名を呼べば、人影はゆるゆると振り向いた。

「生きてたんだな・・・・高杉・・・・」

 はぁはぁと千切れそうな息の中でようやくつむいだその言葉。

 あぁ、生きていてくれた。

 けれど。

 

 振り返ったその瞳を見て、思う。





 君は、もう。





 道でおいかけっこして。

 自分を追って走っていたあいつは。

石に躓き、派手に転んで。

 痛い、痛いと泣いていた。

 あの時は知らなかった。

「大丈夫か?」と、妙な罪悪感と一緒に差し出した手を、まさか、とってくれなくなる日が、来るなんて。







 道でおいかけっこして。

 石に躓き、派手に転んで。

 痛い、痛いと泣いていた。

 あの時は、知らなかったから。

「大丈夫か?」と、心配そうに差し出してくれる手を、まさか、失う日が来るなんて。





共に逝きたかった自分は確かにいて。

そして、独りでも生きたかった自分は今、ここで独りで立っているのだ。

幕府主催、特別出演鬼兵隊残党の祭りは終わり、闇がひそりと音もなく迫ってこようという、そんなとき。

人影のなくなった川原へと足を踏み入れた。

わらじの下で、丸みを帯びた石が互いにぶつかり音をたてる。

うるさい。



うるさい。

うるさい。

うるさい。



うるさい。



けれど音は鳴り止むことを知らず、それは確かに自分が歩いていることの証でもあり。

そして石の泣き声がやんだとき、手は、血にまみれていた。

刀に触れたわけではない。

でも、その手は夕陽よりも赤く、夜の闇より黒かった。

「・・・・・ご苦労、だったな・・・・」

 こいつは、あまり剣は使えなかったが、情報収集に長けていた。

こいつは、槍ならば誰にも負けないやつだった。

こいつは、剣一筋のヤツだった。

こいつは、剣の腕はからっきしだったが、カラクリにはめっぽう強かった。そういえば、親父の話ばかりしていたような気がする。

こいつは、料理がうまかった。

こいつは、冗談ばかりとばしていた。

こいつは、・・・・・・・・・・。

一人ひとりに触れていく。どろりとした血の感触。流した量が多すぎて、未だ固まりきれていないのだろう。



自分は今独り、この世界にいるのだと思った。

それだけが、事実なんだと思った。

ならばその事実の上で、生きていくだけだ。

逝ってしまった、心など捨てて。







そう、決意したから。





 道でおいかけっこして。

 石に躓き、派手に転んで。

 痛い、痛いと泣いていた。

 あの時は、知らなかったから。

「大丈夫か?」と、心配そうに差し出してくれる手を、まさか、自分から、振り払う日が来るなんて。







「た・・・か・・・・すぎ・・・」

 夜叉の声が、帳を下ろし始めた闇の合間をかいくぐってひびく。

「・・・・何しに来た」

 修羅は、その声か、それとも石の泣き声にか定かではないけれど、振り返った。

「生きてたんだ・・・」

「あぁ、みてェだな」

「よかった」

「そうかな」

「そうだよ」

「ふぅん・・・」

 いつしか、あたりはただの闇で。





「・・・大丈夫か?」

「さァな」

「・・・行くとこ、あんのか?」

「さァな」





「ねェんなら、来いよ。俺と」





 星ひとつまたたき。





「・・・・じゃァな」







 星ひとつ、流れた。









 道でおいかけっこして。

 

                 石に躓き、派手に転んで。



        

 痛い、痛いと泣いていた。

        あの時は、知らなかったから。





「大丈夫か?」と、罪悪感と一緒に差し出す手を、



まさか、振り払う日が来るなんて。







 逝きたかった。

 生きたかった。





 それはたぶん、同じこと。



 逝けたやつは生きたかったと言うし、

 生けたやつは逝きたかったと言う。



皆、只の現実逃避。





 だから、生きる。

 逝きたい思いを、抱きながら。



 今日も。









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はいお約束、模試の冊子に書くド暗いシリーズ(いつシリーズ化したんだ)です。
銀さんはお登勢さんと会う前、江戸に行く前京都にわりと近いところにかくれてたってことで。

いつもは大体銀桂が多くて銀さんが沈んでくヅラをヘルプしてくれるんですが、今回は春風はひどい風邪を引いておりまして、午後から始まるテストだけ受けに学校に昼から行ったもので、救いがありません(おー
なので、こっちにも救いがありません。いや、あるけど突っぱねてます(なお悪い


明日も模試とかもう死ねる・・・・

さりげにゲスト三郎でしたー


お読みくださりありがとうございました。

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