銀魂小説 弐

□叫びの果てに
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 初めての戦だった。

 何がなんだかわからなかった。

 周りでもう爆音しか聞こえなかった。

 叫び声しか聞こえなかった。

 そして、いつの間にか終わっていた。



 隠れ家に戻った。

 人数は、かなり減っていた。

 高杉を見つけた。

「よォ、生きてやがったか」

「あぁ・・・お互い悪運が強ェな」

「・・・ヅラ、見たか?」

「・・・見てねェのか・・・?」

 ぽろりと零れ落ちたつぶやきの周りでは、生還と勝利をを喜び喪失と痛みを忘れようと勝の一文字に酔うフリをする志士たちの騒ぎ。

「怪我人とこも見てきたが、いねぇ」

「・・・ウソだろ・・・」

「銀?」

 身を翻して、隠れ家の玄関へと走った。

「おい、銀時?!」

「探してくる」

「バカか!死んでたら探すもクソもねェだろ!!」

「あいつが死ぬわけねェだろ!!」

 騒ぎすぎたらしい。周りにいた志士たちが集まってきた。

「若ぇの、気持ちはわかるが、あきらめろ」

「俺たちは死んでいった奴らの分まで闘うだけだ」

「ほら、こっち来て酒でも飲め」

「お前の傷だって・・・」

「―――――」

「―――――」

 銀時は黙って歩き出した。

「おい、どこへ・・?」

「高杉、わりぃ」

 刀を握り締めた。高杉がイラついたような息を吐いたのを聞いた。

「・・・行けばいいだろ。ここは引き受けてやらァ」

「恩に着るぜ・・・」

 そして、走り出した。声だけがおいかけてくるも、すぐに遠ざかった。高杉が足止めしてくれているのだろう。

 走りながら、心臓の音がうるさいのをやたらと聞いていた。







 改めて見る戦場は、燦燦たる有様だった。

 立ち上る煙と、人間の焼ける臭い。



 悪夢の中にひたすら歩いていく。

 光を求めて。








 戦場に戻ってはいけない。

 それが、この部隊に入ったときにいわれたことだった。

 たとえそれが勝ち戦でも。

 生存を信じればキリがない。

 死者を待っても帰ってはこない。

 我々は先に進まねばならない。

 だから、戦場に戻ってはいけないのだ。

 そう、言われた。

 それでも、戻った。

 まだ陽はあるのに、目の前に真っ暗だった。

 体力はもう限界を超えている。それでも、歩き続けた。自分が生きているのかすらわからなくなってくる。

 生と死の境が、ひどく曖昧になっていくこの空間の中で、生暖かい空気をかきわけて、必死に光を求めさまよい歩く己は、まるで幽鬼のようだとふと思う。

 生。死。

 死。生。

 さぁ、どっち?









「死ねェェェェェ!!!!」

 叫び声と共に、天人が斬りかかって来た。

「?!」

 飛びずさり、刀を抜いた。

「侍どもがっ・・・アアァァァァ!!!!!」

 おびただしい量の血にまみれて、ガクガクと震える足が、決して浅くない傷を示す。

 おいていかれたのか。

 撤退に、けが人は邪魔だ。

「死ね・・・ェ・・・・ッ!!!」

 刀をふりあげ、そして。

 そのまま果てた。

 どうっ、とくず折れる天人の死体を見やり、銀時は背を駆け下りる悪寒を押し殺すのに必死だった。

「・・・桂・・・」








 歩き、歩く。

 足元の死体が、すべてあの姿に重なる。

 人間の、そして天人の焼ける臭いに鼻がイカれる。

 この中に、あいつが入っているのだったら、自分はもうこの世界に光を見つけられないような気がした。

「・・・桂・・・っ・・・!」

 つ、と汗が頬を伝う。

「・・・っ・・・桂ァァァァァァ!!!!!」

 声の限り、叫んだ。

「かつらァァァァァァァ!!!!」

 叫び声に応えるものは、ただ吹き渡る秋の風だけ。

「・・・か・・・つら・・・・・」

 がらんどうの手のひらに残っているのは暗闇と喪失感と、消えてしまいそうな虚無感だけ。

「・・・・先生ぇ・・・・」

 桂は、どこにいるんですか?

 桂は、もうそっちにいるんですか?

 桂を、返してください。

 桂のところに、行かせてください。

「か・・・つら・・・・」

 また、ふわりと風がわたる。

 青い空に叫ぶ。

「うあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」












 これから、どうしようか。

 ふらふらと当てもなく歩を進めながら、銀時はつらつらと考える。

 痛みもなにもかもすべて遠ざかっていく。

 死の泥沼に半身ひたりながら、ふと空をあおぐ。

 ここは、どこなのか。

 ここは、現世なのか。

 それすら、わからなくなっていく。

 どこへ行けば良い?
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