銀魂小説 弐

□性分
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「・・・・・・・・・・・・」
 足音が近づいてくる。
 追いつかれたか。
 舌打した。
 









 性分










「・・・・・・・・・・・・」
 足音は近づき続けていて、俺は刀の柄に手をかけた。
 ざ、ざ、と土を擦る音がして、俺は手の力を強める。
「・・・・・・怪我してんのかぃ?」
「!!」
 どうして、わかったのか。
 俺はぴくりともせずに、そのだみ声の主の様子をさぐった。
「・・・・・・別に取って食おうってんじゃないよ。こっちおいでな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 なんなんだ、このババァは。
 俺はそろそろと立ち上がった。
 ズキン、と傷が痛んだ。
 この江戸に流れ着いてまだ一週間も経たない。
 最後に戦をやったときの傷が、まともに手当てをできずかつ安静にもしていなかったから、少々痛いことになっている。正直、あんまり自分でも見たくない。
「ほら、早くしな」
「・・・・・・・・・・・・・」
 路地から身を出した俺に、ババァは手招きした。そして入っていったのは、小さな店だった。
「・・・・スナックお登勢・・・?」
 スナックか。
 俺は意を決して、その小さな店に足を踏み入れた。

「傷、出しな」
「・・・・・・・・・・・・・」
 ババァの声は決して柔らかいとか、女らしいとか、そーいうのからはかけ離れていたが、不思議と俺の張り詰めていた警戒を解かせた。
「あんた・・・こりゃずいぶん放っといたんだね」
「・・・・まぁな」
「フン、ようやく口利いたね」
「・・・・・・・・・」
「他には?」
「他は、いい」
「バカ言ってんじゃないよ。素っ裸に剥かれたくなければ、おとなしく全部出しな」
「・・・・・・・・・・」
 俺が誰だかを知ったら、このババァももうちっと俺を怖がるのだろうか。
 俺は帯はそのままに、着物を上半身ぬいだ。他にも細かい傷が山とある。
「まったく、派手にやったもんだね。攘夷戦争かい」
「・・・・・・・・・」
「その目は?」
「これァもう、どうにもならねェんだ」
「見えないのかぃ?」
「あぁ。ずいぶん前にやったやつだ」
「バカだねぇ、若いのに」
「若いからこそバカなんだろ」
「はン、言うじゃないかぃ。ま、包帯だけでも変えてきな」
「・・・・・・・・・お人よしだな、あんた」
「フン、黙ってな」
「・・・・・・・・・・」
 今まで誰にも触らせなかったこの左目を、見ず知らずのババァに触られている俺がいる。
 なんなんだ、このババァ。
 新しい包帯なんて、しばらく使っていなかった。手当てをされた傷も、新しく包帯を巻かれた右目も、どこかさっぱりとして気分がよかった。
「ちょっと待ってな」
「・・・・・?」
 幕府に通報でもするんだろうか。
 しかしババァは電話を素通りし、せまっちぃカウンターに引っ込んだ。
 はぁ。
 いてぇな。
 これからどーするか。
 疲れた。
 もう疲れた。
 しばらくまともに寝てねーもんな。
 だるい。
 安モンのソファも、今の俺には何にも勝る。
 暖かい店の中の温度も、心地よい。
 冷たいテーブルに突っ伏す。
 目を閉じると、今にも眠ってしまいそうだった。
 おいおい、いい加減にしろ。
 何考えてンだよ、俺ァ。
 ババァとは言え、見ず知らずの奴の家で居眠りとか、今の俺にどんなにヤバイかわかってねーわけねーだろ。
 俺が葛藤していると、コトンと何かテーブルに置かれた。
「?」
 気づかなかった。ババァが戻ってきていて、テーブルの上に皿に乗った握り飯三つと、茶があった。
「寝るんだったら、食ってから寝な」
「・・・・・・・」
「腹へってんだろ、どーせ。残りモンだが、よけりゃ食いな」
「・・・・・・・」
「毒なんぞ入っちゃいないよ。大体、あたしは幕府は好きでも嫌いでもなんでもないんでね」
 それだけ言うと、ババァはくるりと背をむけ、またカウンターの中に入ってしまった。
「・・・・・・・・・」
 確かにここしばらく、まともなものは食ってない。
 握り飯はまばゆいばかりの光沢を放っているように見えた。俺の目もそろそろ捨て時か。
 そろそろと、手を伸ばした。
 触れた。
 あとはもう一直線だった。
 あっという間に、三つの握り飯を腹に入れ、俺は湯飲みの茶を一気に飲んだ。
 しばらくぶりの暖かい茶に、喉が焼けそうだった。
「・・・・・・・・・っ・・・・」
 はぁ、と息をつくと、俺の理性は最早無力だった。
 あっという間に、俺は眠りにずるずると引きずりこまれていった。


「・・・・・・・・・・ん・・・・・・・?」
 ふと目が覚めた。
 俺は壁によりかかり、ソファの上で寝ていた。
「!」
 慌てて起き上がると、肩から何かが落ちた。
「・・・・・?」
 ひざ掛けか、何かか。
「あら、起きたかい」
「・・・・・・・・・・・」
 カウンターの中にイスがあるらしい。ババァの頭だけが見える。
「・・・・今は・・・・」
「もうすぐ七時だよ」
「・・・七時・・・」
 ということは、三時間近く寝ていたということか。
 なんてこった。
「・・・・・・・・・」
 俺は立ち上がった。
「行くのかい?」
「・・・・・・・・世話になった・・・・・・」
 俺はひざ掛けらしい布をたたんだ。カウンター越しにババァにそれを渡しながら、俺は言った。
「・・・・・・バカも大概にしなよ」
「努力くれぇはすらァ」
「そうしなよ。・・・ま、また死に掛けたり、食いっぱぐれたら、店の裏にでもおいでな。残り物ぐらいは食わせてやるよ」
「・・・・・・ここは、なんて町だ?」
「かぶき町さね。ここはスナックお登勢だよ」
「・・・なら、かぶき町では騒ぎはおこさねェようにしねェとな。せっかくエサもらえる家を、潰すわけにはいかねぇからな・・・・・・」
 じゃぁこのババァはお登勢っていうのか。
 ずいぶんと肝っ玉の据わったババァだ。
 ふと笑い、俺は言った。
「この恩は忘れねぇ・・・・あんたは、絶対に、巻き込まねぇ」
 俺はそういうと、小さな店の入口を開けた。
「それはそうと、あんた、相当のお人よしだな」
「もう直らんよ、性分さね。それにしても、一回傷見てエサやっただけの奴がいるからって、町ひとつ舞台に使わないってテロリストも、見たことないねぇ」
「俺ァ恩は忘れねェんだよ。これも、性分だろうさ」
「なるほどねぇ。ずいぶんと、律儀な野良猫も居たもんだ」
「野良だからこそ、一回でもエサくれた家のありがたさは、知ってるってもんさ。じゃぁな」
「あいよ」
 外に出た。
 久しぶりに、ずいぶんと話したな。

 見上げた看板は、「スナックお登勢」。二階はあのババァの自宅だろうか。

 妙な人間も、いるもんだな。

 ククと笑い、俺は星を見上げながら歩き出した。
 



fin...

さり気にお登勢さんはかぶき町中のテロリスト手なづけてるといい笑
ヅラも通ってたしなw

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