小説

□僕と妖怪の冒険
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「んんん…?」
僕はなんだかまぶしいのに気づいて、目をゆっくりと開けた。
僕の視界には青い空と、白い雲が見える。
周りを見ると、山の中の道みたいだ。

じゃり道の横には深い森が広がっている。
とりあえず僕は身を起こして、何がどうなったのかを頭の中で整理した。
「えっと、なんか首の無い馬がいて、男の人がその馬をなだめて、男の人が振り向いたら一つ目で…」

僕は、改めて辺りをキョロキョロと眺めて眉間に思いっきりしわを寄せた。

「ここ、どこ…?」
さっきまで僕は山の斜面(薄暗い、ジメジメ)に居たはずだ。
こんな道はさっき無かったし、こんなに明るい山じゃなかったはずだ!

「あ、起きたんだ」
「ヒギャッ」
僕は短く叫んで声のした後ろを振り向いた。
もしかして、さっきの一つ目の…!?

だけど、そこに居たのはさっきの一つ目じゃなかった。
そこには優しそうな雰囲気の男の人が立っていた。
ちゃんと目も二つある。

けど、唯一変だと思ったのが服装だった。
日本昔ばなしに出てきそうな山伏の服装をしている。下駄も一本歯だし。

「まあ、これ飲んで落ち着いて」
山伏風の服を着た男の人は、僕の傍に膝をついて竹筒みたいなのを渡してきた。

僕は、その人の優しそうな顔を見て、その竹筒をとりあえず受け取った。
「これ…何?」
「向こうの岩から出てる清水」
「はぁ…」
水なら僕も水筒にあるんだけどなぁ…それより岩から水ってでるのか?
けどまあ、せっかく持ってきてくれたっぽいし。

僕はあんまり汚れてないところに口をつけて一気に飲み干した。
「あ、うまい!」
じいちゃんの家の水も中々おいしいけど、この水の方がもっとおいしかった。
なんだろう、水だけど甘いと言うか…

「まあね。天然水だからね」
山伏風の人は嬉しそうに笑いながらその場に腰を下ろし、あぐらをかいた。

「あの…ところで、ここってどこですか?信じてもらえないかもしれないんですけど僕、変な怖いものに会って気絶しちゃったぽくて、気づいたらここで寝てて…」
「怖いものって一つ目の、でしょ?」
「し、知ってるんですか!?あと首の無い馬とか…!」

僕がその恐怖を話し始めようとすると、山伏風の人があっさりと答えた。
「安心して。その首なし馬と一つ目の男は僕の友達だから。夜行の日に会わない限り殺されるって事は無いしね」
「……はぁ?」
僕が変な顔をすると、山伏風の人は慌てて続けた。
「えっと、夜行さんって分かる?その人なんだけど…人じゃなくて鬼だけど…」
「夜行、さん〜?」

僕が首をひねってるのを見て、山伏風の人は真顔で話しはじめた。
「とりあえず、僕の話を信じてくれるかい?」
急に真顔でそんなことを言われたので僕も真面目な顔になって相手の顔を見返した。

「君が会った一つ目の男は夜行さんっていう名前の鬼。夜行の日に首の無い馬に乗って現れるんだ。僕は夜行さんに頼んで人間をこっちの世界に連れてきてもらってるんだよ」
「……はぁ?」
何言ってんのこの人?

僕は怪しい人を見る目つきでその男を見るけど、山伏風の人は早口で話し始めた。

「実は僕、天狗なんだけど、今神通力とか天狗の象徴の鼻を盗られちゃって…それで山の神様に相談したら人間に力を貸してもらうと良いって言われて、それで僕は結婚する予定があるんだけどこんな情けない姿の男に娘はやれないって相手のお義父さんに言われて、それで一ヶ月以内に力と鼻を取り戻したら結婚させても良いって言われてて…」
「………」
必死に説明してもらってるけど、正直、言ってる意味わかんないです。
ちゃんと主語述語考えて喋れよ。
つーか何?この人頭おかしいの?
服装からしておかしいもんな。

「大変そうですね〜。あと結婚おめでとうございまーす」
僕は立ち上がって素早く逃げ始めた。こういう時は逃げるに限る。
怪しい人に会ったら逃げなさいって家でも学校でも言われてるもん。

「ああ!待って!もう期限まで3日しかないんだ!ここ10日間全然人が来なくてもう君に賭けるしかないんだよー!」

後ろから下駄でザシャシャシャッと追いかけてくる音が聞こえてきて、僕は必死になって手足を素早く動かして逃げた。
「待って、まっウグアッ」
すると叫び声と共に、後ろからズザシャァッと大きい音がした。
僕は走りながら後ろを振り向くと、山伏風の人はこけたらしく、うつ伏せになっている。

「天狗がそんな無様に転ぶもんかー!」
僕はそう突っ込んでからチャンスとばかりに道を走り続けた。

〜〜〜〜〜〜
「ああ…行ってしまった…」
山伏風の男はムクリと起き上がって悲しそうな顔をした。
「呆れるのう」
森の中から女の声が聞こえた。
「ハッその声は…」
山伏風の男が声のした森の中を見ると、草むらからキツネが現れた。

「あんなワラシ如きに何をてこずっておる」
キツネは呆れたような顔で喋っている。
「いや、久しぶりに走ったら足がもつれて…」
山伏風の男は恥ずかしそうに頭をかきながら立ち上がった。
「それより、さっきの子追いかけないと。時間もないしあっちの方は危険…」
山伏風の男が走り始めようとすると、キツネが前に素早く移動して行く手を阻んだ。

「まあ待て。あのワラシは頭が固そうじゃ。怖い目に合うまでしばらく放っておこう」
「え…何で?」
山伏風の男が聞き返すと、キツネはニヤッと笑った。

「怖い目に合えば嫌でも今の状況を信じざるを得ない。そしてそのような所を助ければお前様はあのワラシの命の恩人になる。そうすればこちらの言う事も聞くじゃろうて」
キツネは二本の尻尾を振りながら歩き始めた。

「君って本当に色々考えてるねぇ」
山伏風の男は感心しながらキツネの後をついていくと、キツネは振り返って答えた。

「お前様は何も考えなさすぎじゃ」
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