小説

□僕と妖怪の冒険
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「ハァッハァッハァッハァ…」
僕はとにかく山道を走り続けた。
だけどもう体力は限界に近づいてたから、スピードを緩めて後ろを振り返る。
後ろには誰もいなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ…あー疲れた〜!」
僕は首の手ぬぐいで汗を拭きながらゆっくりと歩き始めた。
そして、僕がこれから歩く道を眺めた。
アップダウンが激しいけど、どこまでも真っ直ぐな道だ。
果たしてここを歩いてて元の場所に戻れるもんだろうか。
せめてここの場所ぐらいさっきの人に聞くべきだったか。

「けど、怪しい人だったしな。別にいっか」
僕は自己完結して急斜面を登り始めた。
太陽はジリジリと照り付けるし、周りからはセミの鳴き声がする。
まさに真夏日だ。
ばあちゃんに水貰ってよかった。

僕は水を飲んで、自分の足元を見ながら斜面を登り始めた。
自分の足が左右交互に前へ前へと進んでいくのを見ながら登っていくと、目の端に僕の足じゃない別の足がふっと見えた。
草履に、足袋を履いている。

驚いて顔をあげると、着物を着た真顔の女性が目の前に立っていた。
なんだか、時代劇に出てきそうな女の人だ。
髪の毛は結ってないけど、すごく長い。

僕はいつの間にその女性が目の前に現れたのか、ということより、その人の綺麗さに目を奪われていた。
顔つきも綺麗だし、長い髪もとても綺麗だ。
ほんの少し風が吹くだけで黒い髪の毛がサラサラと動く。

と、それまで真顔だった女性はニコッと僕に微笑みかけてきた。
僕はちょっと照れくさかったけど、ニヘラッと笑い返した。


…と、その途端、女性の顔が綺麗な顔から般若みたいな顔に変わった。
それと同時に、綺麗な長い髪がグネグネと動いたかと思うとブワッと広がり、僕の体にギュルギュルと巻きついた!

「ぎゃああああああああああ!」
僕の足は地面から離れて上に持ち上がった。
僕の体には女の人の髪の毛が巻きついて…っつうか、何これ!何これ!?何これ!?
髪の毛が動いて僕の事がんじがらめにしてんですけど!

「こんな所に人間が来よるとはなぁ、久々のご馳走じゃわい!」
僕はあんぐりと口を開けながら女の人を見ると、女の人は舌なめずりして、髪をグネグネと動かしている。

「子供の肉は美味いけん。柔らけぇし、適度に脂ものってるけんのぉ…」
女の人は髪の毛の先を僕の服に引っ掛け、そのまま歩き始めた。
「す、すみません!降ろしてください!ごめんなさい!ごめんなさい!」
僕はもう混乱して謝りまくった。
「生で食うか、焼いて食うか、煮て食うか…肝は山姥の所におすそ分けでもするかのぉ。美味いとこだが山姥にはぎょうさん世話になってるけん」
女の人は物騒な事を呟きながら山道を外れて森の中へと入っていこうとする。

これは、本格的にやばい。
相手が何者かは知らないし、なんで髪の毛がこんなに動くのかも分からない。だけど殺される事は確実じゃないか!?

「たすけてえええええええええ!誰かーーーーーーーーー!」
僕は絶叫した。

すると女の人はうるさそうに耳をふさいで僕を睨み上げた。
「そんなおらぶん(叫ぶん)じゃないわい!」
「あああああああああ!殺されるーーーーーーーーーーー!」
僕はとにかく叫んだ。
もしかしたら近くにいる人が助けに来てくれるかもしれない!

そしてこれ以上森の中に連れて行かれないように、近くに生えている太い木に素早くしがみついた。

「だー!食う前にしばきたおすど、ぼうず!」
女の人はイライラと僕を髪の毛で引っ張るが、命がかかっている僕は必死に木にしがみついた。

「諦めぇ!ウチの力には勝てんがー!」
女の人は髪を振り乱して、僕がつかまってる太い木に髪の毛を巻きつけた。

そしてそのまま木をズルッと引っこ抜いて木を持ち上げたまま歩き出した。

「どえええ!?」
だって、太い木だよ?それを軽々と引っこ抜いたんだよ?
しかもそれを持ち上げたまま歩いてるんだよ?

その衝撃的なものを見た瞬間、なんとなく僕の人生はこれで終わると感じた。
それと同時に、僕の頭には今までの出来事が走馬灯のように駆け巡った。

「ひぎゃあああああ!殺される!殺される!だずけでー!うあああああああ!死にたくないー!」

「おーい」
声がした。
そっちを見ると、さっきの山伏風の人が立ってる。
その姿を見た瞬間、何故か涙がブワッとあふれ出た。

「だずけで!山伏だずけでー!殺されるー!うああああ!」
僕が泣き叫びながら手を伸ばすと、山伏風の人は大きい声を出した。

「おーい、針女(はりおなご)!」
針女と呼ばれた女の人は足を止めて振り返った。
「何かウチに用け?」
山伏風の人はガサガサと森の中に入ってきた。
「その子供は僕が夜行さんに頼んで連れてきてもらった子なんだ。返してもらえないかな」

すると針女は嫌な顔をした。
「ほんじゃきんど、ウチがせっかく捕まえたんに…」
「頼むよ、僕に免じてさ」
山伏風の人が手を合わせて頭を下げると、針女は少し悩んだ後、渋々といった感じで僕と引っこ抜いた木を地面にドスッと降ろした。

「次ぃ人間捕まえたらそれはウチんじゃけんな!ったく、はがい(むかつく)わぁ…」
針女は悔しそうにそういい残すと、森の奥へと消えていった。

「大丈夫だった?怪我してない?」
山伏風の人は心配そうに僕に近寄ってきた。
その山伏の優しい言葉と声に安心した僕は、緊張の糸が切れたのかその場に倒れた。

本日二度目の気絶だ。
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