まんが日本昔ばなし

□伊右衛門だぬき
1ページ/1ページ

昔々、ある所に伊右衛門とおよい、と呼ばれる夫婦の狸がおったそうな。

およいは気立てが良かったが、旦那の伊右衛門は怠け者で1日中ごろごろしとった。

この旦那は嫁が止めるのも聞かず、暇をもてあましては色々なものに化けて人に悪戯をしとったそうな。

地蔵に化けてはお供え物を食べる、そば屋に行って金を払ったと思ったら葉っぱに変わる。

村人も最初のうちは愛嬌と思っていたが、段々と伊右衛門の悪戯がひどくなり、困っておった。

およいは
「そんな事してたらそのうち鉄砲でズドンと撃たれて私はこの山で一人ぽっちよ」
と泣きながら言っても
「なぁに、俺は大丈夫さ」
と聞く耳もたん。

およいも困ってしまい、普段お世話になっている庄屋さん(人間)に旦那を説教してくれるようにと頼んだ。

「あのなぁ…」
と庄屋さんは伊右衛門を説教しようとすると伊右衛門は庄屋さんの姿に化け
「どうかしましたかい?」
とおどける始末。

それでも庄屋さんは
「およいがあんなに心配してるのにお前は…」
と説教すると伊右衛門は
「それだったら心配は要らん。俺の女房は心配するのが好きなんだ。じゃあ、俺はこれで帰るで」
とさっさと帰ってしまう。

それからも伊右衛門は女房の心配をよそにますます悪くなって、人を騙しておった。

村人はついに怒り出し、鉄砲で撃ち殺して狸汁にしてしまおうという者まで現れ始めた。

それを聞いた庄屋さんはおよいの所へ会いに行った。

庄屋さんはおよいに
「亭主を化かしてやれ」
と言うが、およいは
「亭主を化かせですって?それは出来ません」
と断った。しかし
「お前の亭主が鉄砲で撃たれて死んでもいいのか?」
という庄屋さんの言葉に泣く泣く頷いた。

その夜、伊右衛門が夜道を歩いていると向こうから人がやって来る。
「ありゃー清重さまだ」
清重とは、この国で一番強いといわれている二本刀の武芸者で、村人もこの清重を恐れておった。

伊右衛門は
「いくら清重さまでもこれにはかなうめえ」
と幽霊の姿になったが、いきなり何かに張り飛ばされて倒れてしまった。

気づくと清重は刀を抜いて伊右衛門を踏みつけている。

「た、助けてください清重さま」
と伊右衛門は命乞いをしたが清重は
「天下の清重と知って化かそうとは不届き千万!」
と青筋をたてている。

「どうかご勘弁を、家には女房がいて俺が死んだら路頭に迷っちまうで」
と震えながら頼んだが清重は
「いいや、お前のような不届き者は成敗してくれる!」
と刀を構えて振り下ろし、伊右衛門だぬきの頭の毛をバッサリと切ってしまった。
伊右衛門は
「やられた〜!」
と気絶してしまった。

するとおよいが現れ、伊右衛門を助け起こした。
清重はおよいが化けておったのだった。

伊右衛門は
「およい?およいか?ああ怖かった、思い出しただけでも震えがくる、もう人間は化かさねえ」
と言うとおよいは
「あんた、本当だろうね?今度人間を化かしたら今度こそ切られて死んでしまうかもしれないよ。そうしたら私は路頭に迷ってしまうんだからね」
伊右衛門は
「ああ、分かったよ分かったよ」
とおよいと二人で家に帰った。

それからと言うもの、伊右衛門はたまに悪い癖が出て人を化かそうとしたが、その度におよいに
「清重さまが来るよ」
と怒られておったということじゃ。

以上、兵庫県のお話。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ