小説

□僕と妖怪の冒険
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僕が家から出発して何十分経ったんだろう。
家の縁側から見れた山は意外と遠く、かなり歩いても中々近づかない。
田んぼのじゃり道を歩きながら、僕はばあちゃんが持たせてくれた水を飲みながら例の山に向かって前進している。
「あー、疲れたぁ…」
たまに戻ろうかと振り向くけど、家も見えないほど遠くに来てるからしょうがなく前を向いて歩いてく。
ここまで来て戻るのもなんか嫌だし。
「あー、暑い…」
僕はばあちゃんが持たせてくれた手ぬぐいで汗を拭く。
「なんでこんなに遠いんだよ…」
僕は一歩歩くごとに文句を言いながら進んだ。

「あーー!おめぇ!」
すると、少し離れた前のほうから声が聞こえた。
僕がそっちの方を見ると、子供が田んぼの側の水路から顔を出して僕を見ている。
「おめ、今日ラジオ体操来なかったべ!いけねーんだー!」
とても日に焼けてる子が僕に近づいてきた。多分、ガキ大将的な立場なんだろう。
背も大きいし、そんな感じがする子供だ。
「別に1日ぐらい休んでも何にもならないよ」
確かに、僕は今日この地元のラジオ体操に参加しなかった。
だって気づいたらもう終わってる時間だったし。

「ラジオ体操は毎日行かないといけねぇんだどー」
ガキ大将はそう言いながらジロッと僕を見た。
「で、おめえそんな古臭ぇ手ぬぐいしてどこさ行くなよ?」
「古くさ…っ!?」
僕はばあちゃんが渡してくれた手ぬぐいを見た。まあ、古臭いといわれればそうかもしれない。
けどせっかく渡してくれたんだし、と僕は気を取り直して質問に答えた。
「あっちの方」
僕が天狗の出るという山を指差すと、ガキ大将はへー、と頷いた。
「おめえ川行くなが?」

そうか、向こうには川もあるのか。
まあ、天狗の出る山に行くと言ってもいいけど、説明するのが面倒くさかった僕は頷いた。
「んー…うん、まあ川じゃないけど夏休みの自由研究であっちの方いこうかなって」
「自由研究かー。んだったら川らへんまで連れてってけるわ。ここら辺には詳しくねえだろ?」
ガキ大将は僕にそう言って歩き始めた。

ガキ大将は意外といい奴だった。
映画とかだったらこういう田舎のガキ大将って都会からきた少年をいじめるってイメージあるんだけどね。
まあ、所詮映画の話か。

「で、おめぇって自由研究何するなよ?」
ガキ大将がじゃり道を歩きながら僕に聞いてきた。
「んー…」
天狗が出るっていう山に行きたいだけなんだけど、言ったら止められるかなぁと思った僕は少し考えた後、嘘をついた。
「そこら辺に生えてる草とか採って、『母さんの実家に生えてた雑草』って感じにしようかなぁって思ってるんだ。もしかしたら僕の住んでるところに無い草もあるかもしれないし」

とっさについた嘘の割りには結構いい嘘じゃないか?
僕は自分に感激していると、ガキ大将は目を輝かせた。

「いいな、それ!その考えパクってもいいだろ?どうせ俺ら学校違うんだしよ」
「いやまあ、別にいいけどさ…」
僕はもう自由研究終わったし。

「で、おめえ宿題とかどうだ?終わった?」
「あと自由研究と(終わったけど)工作と算数のドリルと工作と書道で終わり」
「あっはっは。おめぇ真面目だなぁ。俺全然手ぇつけてねえんだ。あともう一週間で夏休み終わりなのによぉ」
「あはは…」
そりゃ、そんだけ黒い肌してたら宿題なんてやらないでずーっと外にいたって事が丸分かりだよなぁ。

〜〜〜〜〜〜
そうこうガキ大将と話し合いながら進んでいくと、川についた。
「じゃあ、俺あっちの草採るから。昼になったら俺勝手に帰るからな。帰り道は分かるべ?」
「大丈夫だよ。だって直線道じゃん」
「まあな。何か変な草あったら俺んち届けてくれ。俺も変な草あったらお前んちに持ってくわ」
「うん…ありがと」
特にいらないんだけどなぁ。
ガキ大将は意気揚々と川原を進んで行き、やぶの中へと消えていった。

「さてと…」
僕がぐるりと周りを見渡すと、例の山は近くにそびえ立っていた。
川をさかのぼって行けば自動的に山に入っていけそうだ。
僕は川原の大きい石に足をとられながらも、川上へ進み始めた。
じゃり道も結構歩きづらいものだけど、大きい石がゴロゴロしてても歩きづらいもんだ。
下手に転んだら足をくじきそうだし、最悪の場合頭を打って死んでしまいそうだ。

けど結構歩いてるうちに川原の歩き方のコツっぽいのを掴んだ気がする。
大きい石の上を歩いていけばいいんだ。
そうすればつまづきにくい(気がする)。

僕が大きい石の上をピョンピョンと飛び続けてふと気がづくと、周りに木が多くなってきていた。
それに僕の身長を軽く越す草が僕を取り囲み始めている。
「あれ、もしかしてもう山入った?」
つーか、山と川原の境界線なんて良くわかんないけど。
僕が山の方を見ると、遠くから見たときの景色とは違い、すごく薄暗くてジメジメしてて草がボーボーで、いかにも何か出るような感じがひしひしと伝わってくる。

僕はデジカメを取り出して一枚、山を撮った。
どうせだから夏休みの宿題の一つである工作も終わらせようと思ったからだ。
工作の題名は『山の写真集』
もし天狗が写ったら『スクープ!〜天狗の居る山〜』にしよう。

僕は撮った写真を確認したけど、普通に薄気味悪い山が写ってただけだった。
「まあ、幽霊も天狗も早々簡単に写るわけないよな…」
僕は独り言を言いながら、少し斜面になっている川原(山道?)を歩いていった。

が、これが大変だった。
進むごとに草が僕の行く手を阻んだ。
そりゃあ、じいちゃんが子供の頃から放ったらかしにされてた山だもんな、木も生え放題、草も伸び放題、そうやって色んな植物が密集してるから太陽の光が届かなくて全体的に暗くてジメジメしてる。
なんていう悪循環だ。

「ぶはっ」
僕が草をかき分けて進むと、すごくネバネバしている強度の高いクモの巣に顔から引っかかった。
僕は慌ててクモの巣を顔から払い落とす。
そして何気なく横を見ると、黒と黄色の毒々しいクモが慌てて木の上に避難していた。

「………」
僕は、木の上にスルスルと登っていくクモを見つめていると、すごく高い木々の隙間から青空がちょっと見えた。
その青空を見て僕はボンヤリと考えた。
そういえばまだお昼にもなってなかったなぁ、と。
この山の中はすごく薄暗くて、もう夕方なのかと思うほどだ。
「…もしかして、この山…」
僕はある考えに到達した。
天狗が居て、神隠しで人が消えたんじゃない。
この鬱蒼とした山に人々は迷い込んでそのまま帰れなくなったんじゃないか?
それをじいちゃんたちは天狗の仕業と考えてたとか、そういう考えもあるんじゃないだろうか?
山に山菜取りに行って遭難したって言う話も現代でもあるし。

「てか、そっちの方が信憑性あるじゃないか」
僕はため息をついた。
「なーんだぁ、天狗がどうのこうのって言ってもそんなもんか…」
僕はUターンをして戻ろうとした。
「あ、けど最後にもう一枚」
僕は振り返ってデジカメでパシャッと山の中を撮った。
そして撮った写真を確認す…
「んん?」

僕の眉間に思わずしわが寄った。
写真の中に、馬の尻っぽいのか写ってる。
顔をあげて今撮った所を確認すると、茶色い馬の尻が見えた。尻尾がファサッファサッと動いている。
頭の方は木と高い草で隠れてて見えない。
場所は5時の方向、約10m先。
僕はきっと近所の馬小屋から馬が脱走してここに逃げたんだと思った。
近所で馬飼ってるところがあるかどうかも良くわかんないけど。

「…るーるーるーるー」
とりあえず僕は優しく声をかけた。
馬になんて言えばわかんないからとりあえずキタキツネにやるように。
すると馬は僕の声に気づいてガサガサと動き、その姿を見せ…
「あ…え?」
僕の体は硬直した。
馬の胴体はある。前足も後ろ足もある。
だけど、肝心の頭が、首から上が無い!

首なし馬は人懐っこそうに背の高い草を軽々と飛び越えて僕に駆け寄ってくるが、僕は恐怖で叫んだ。
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
すると、馬の後ろから誰かが素早く現れて、馬の手綱を掴んで引っ張った。
「どう、どう!どう!」
首なし馬はじたばたと少し暴れたが、すぐに大人しくなってその場に突っ立った。

「うあ、うわあああ、ああああああ…」
僕は恐怖で腰が抜けてその場にへたり込んでいた。
歯はガチガチと激しく鳴って、手も足もガクガクと震えている。

首なし馬の手綱を引っ張って止めた男の人は、馬の背中を何度か撫でた後に口を開いた。
「しばらくぶりに人間がきたと思ったら…子供か」
そしてゆっくりとこちらを振り向く。

僕は、その男の人の顔を見た瞬間にふぅっと意識が遠くなるのを感じた。
だって、目が、でっかい目が、顔の中心にある一つ目のでっかい目が、僕をギョロッと睨んだんだもん…。
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