Novel
□I want chu!
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その部屋は"入らずの間"と噂されていた。
床には散乱した綿。
それは、この部屋の主が切り刻んだ縫いぐるみから出たものに他ならない。
元から暗い室内を、天井からぶらさがった灯りが薄ぼんやりと光を放って、気休め程度に照らす。
口元に妖艶な笑みを浮かべながら主はゆっくりとソファに沈んだ。
その理由は、彼の背後に何者かが近付いているからである。
「やあ、兄さん?」
「ヴィンセント……」
埃っぽい空気を吸い込んでギルバートはその男の名を呼ぶ。
濁りのないオッドアイの片目が揺れた。
「何故オレだってわかった?」
「わかるよ、ギルの気配はね……」
当然のことだと言わんばかりに、ヴィンセントは答えた。
「ギルが一人で帰って来るなんて珍しいね?今日はどうしたの?」
「…………」
問うとギルバートは視線を下へ這わせた。
彼の考えはわかりやすくて助かる。
「ヴィン」
「ああ……オズ=ベザリウスのことでしょ?」
言葉は笑顔に遮られた。
そう。
彼は、例の件から弟を口止めしに来たのだ。
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