お話
□牛乳の正しい摂取目的
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それは昼休み。屋上でのこと。
「あれぇ。背ぇ伸ばしたいの、綾・・・?」
賢吾が綾の手にしている牛乳を指差して言う。
「何、賢吾。あんた知らないの? 牛乳飲んでも背は伸びないのよ?」
「えー!?・・・でも、カルシウムたっぷりなんだろ?」
綾は目の前で手を打ち払い、説明を続ける。
「確かに牛乳は高い栄養価を誇り、カルシウムもたっぷり含んでいるわ」
「だろ?」
「でも。人体が腸でそのカルシウムを吸収するのを阻害する、リンもたっぷり含んでいるの。だから、吸収率が良くないのよ。
結局。体に残るのはカルシウムを除いた『高い栄養価』になるのよ」
「何ですと!?」
小気味良く狼狽えるリアクションを返す賢吾。
「あと、人は元々、乳を正常に摂取出来るのが赤ちゃんの時だけだから。
牛乳飲んでお腹ゆるくなっちゃう人がいるのは それでなのよ」
「ガーン!!」
「犬や猫にも、ちゃんと専用のミルクがペットショップで売られているから。飲ませるならそれをあげなきゃ駄目よ?」
綾が、そう補足するのも聞き終えてから。
「そこまで知ってて、何で牛乳飲んでんだよ?
そんなに好きなのか?」
昶が不思議そうに尋ねる。
そう。綾は牛乳を飲んでいる。
紙パックモノではあるが、それを持つ手の小指は天を差し。
反対の手は腰に軽く当てられている。
その姿勢で勢い良く吸い込み、かむように飲んでいるのだ。
パーフェクトな飲みっぷりである。
「そうですねぇ。牛乳の特徴で、実際に残るのが『高い栄養価』・・・つまり、脂肪の素だけなら・・・綾さんは世の女性の大半が忌避する それ を進んで摂取していることになりますね?」
「えっ・・・あ、そのぅ・・・」
途端に歯切れの悪くなる綾。
他の三人は首を傾げるばかりだったが・・・
「胸を大きくしたいんだよねー?綾ちんは!」
そこに調子良く割り込んで来たのは、洸だった。
「ひっうっ、とぉう!?」
途端に変な踊りを始める綾。
「ほら。たまにさ、運動部の女の子がさっ。背を伸ばしたいからって言って、牛乳飲んでたら背は伸びないのに、胸大きくなっちゃったーって素晴らしい事になった話聞くじゃん?」
「ああっ。なぁーんだ、そぉーゆうこ「ふんっ!」ぶふぅっ!?」
「ってゆーかっ!何であんたが此処に居る!?」
綾は、賢吾に一発入れた後。そのままの勢いで洸に詰問する。
「いや、お兄さんが必要だって空気を感じてさっ!」
―――だから 関係者以外立ち入り禁止である学校に踏み込んで来たらしい。
もはや 完全に不審者で変質者で犯罪者である。
「出てけ」
綾は一言。簡潔に命じ、事を済ませようとする。
「うわー、酷いなぁ・・・」
苦笑する洸。やっぱり軽い。
「酷くないっ!!」
風紀委員の腕章を装着し、木刀をかざして突っ込んで行く。
「うぉうっ!?」
洸は当然回避。そのまま逃走する。
「待たんかいっ!」
「あ・・・行っちまった・・・」
「・・・行ってしまいましたね。元気なことです。」
「しっかし、綾も頑張るな・・・下手したら太るだけって事だろ?」
「そうですね・・・しかし、まぁ 彼女はよく動いてますから・・・」
大丈夫なのでは?と言ってみる白銀。
「・・・なるほど」
その時、どこかで聞き慣れた声が悲鳴を上げる。
「・・・・・・なるほどな」
昶はもう一度、静かに頷いた。
そうして昶がのんびりと昼食を終え。立ち去った後の屋上で・・・
「誰か・・・俺の心配は?」
独りの少年が泣いていた。