お話

□その、涙が零れる懐かしさに…
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此処は、

界の狭間に在るかもしれない

バー 『えーじんぐ』。


此処で必要なのは、ドアの開け方・閉め方についてのマナー だけである。














開店までまだ少し時間がある店内にて。

其処では今、白銀が一人。常連客の特権で早めの一杯目を飲み終えたところだった。

「しぃろがねぇええ――!!!」

突如として、何故 未だにドアが無事を装ってキィキィ揺れていられるのか、その留め具を最新技術でもって検証したくなる程の爆音を伴ってのり込んできたのは

洸だった。

「白銀! てめぇ・・・っ!!」

鬼の形相で白銀に詰め寄る洸に対し、バーのマスターがやんわりと問い掛ける。

「ああ、ほらほら。落ち着いて・・・ ドアは・・?」

「『ゆっくり 静かに開け閉めしましょう。』・・・ごめんっ! でもホント急いでるんで・・・」

「それでも ドアは・・・?」

「『たおやかな 貴婦人を想わせる流れで開け閉めしましょう。』
本当に、申し訳もございません」

どんな時にも、敵に回してはいけない御仁はいらっしゃるものである。

「いや、良いんだよ。 分かって、実践してくれれば・・・ね?」

「・・・最強だな・・・」

呟く白銀。

「何のことかな?(ニコリ)」

白い歯がキラリと輝くマスター。

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」







此処は、界の狭間に在るかもしれない

バー 『えーじんぐ』。


「・・・それで、一体何事かな?」

マスターはやはり、あくまで穏やかに洸に尋ねた。

「そうっ、そうだったよ! 白銀!! ありゃ どういう事だ!?」

「・・『ありゃ』てぇのは?」

「とぼけんなっ! アニメ最終話の事だ!」

「ああ、感動的だったな。 特に俺と昶との、別れの・・・」

「そうっ!それっ! 俺がアキに言ったのは 最初の時、白銀はどうした 何をしてきたかという事だ! それを返せば手順に間違いはないんじゃね? て事だ!!」

「ああ。間違いなんて無かったとも! しかしまぁ、まさか昶から・・・」

「お前アレ必要無かったんじゃねぇの!? 俺知ってんだからな! 原作じゃ全然そんな事無かったって! 知ってんだからな!!」

思わずにやける白銀に、何が何でもその先は言わせない・・・聞きたくない。
洸は無意識の内に妨害を入れていた。

何というか『うちの子に何してくれんの!?』て感じである。

「いや、でも 演出としては・・・なぁ?」

「いやいや、白銀。僕に振らないでね」

「冗談じゃねぇ!! お前なぁ? 俺はアレだよ!? アキを見つけてからというもの・・・『未来の上司に悪い虫が付いたら大変!』て感じに ずっとケンも巻き込んで、イベント祝日には三人で鍋をつつき。それとなくアキの恋愛観に探りを入れ、全然興味がないと知って安堵しながらも、油断は禁物と これまでずっと軽い兄ちゃんやりながらきっちり かっちりやってきたのよ!? ・・・それを・・・・・・それを・・・お前・・・っ!!」

「・・・なんとも まぁ、涙ぐましい光源氏計画があったんだな・・・」

「誤解招くような言い回しすんじゃねぇよ!! 俺はあくまで上司であり弟分なアキを清く正しく導こうとしたのっ!! 」

(・・・清く正しくって学校サボるの推奨してたよね・・・?)

声には出さないが、内心突っ込まずにはいられないマスター。


それでも洸は想う。
悪い虫の一匹や二匹、付いてしまった場合への対応だって考えてきた。
アキには悪いが、どうにも悪すぎる虫なら いっそ自分の方にその虫を口説いて、アキとの仲を崩した上で ポイ捨て。を装う事も厭わない。ああ、でも それしたら俺までアキに嫌われちゃうよどうしょう

・・・とか。

(あれ? 駄目なんじゃん・・・いや、まぁそれは今 置いといて・・・)

全くもって想定外の事態だった。
まさか虫が自分の知り合いで、おまけに・・・

(男って・・・)

「最悪じゃボケぇえええっ!! アキの純潔返せええっ!! お前みてぇな二重人格を素でいく馬の糞野郎にうちのアキはやらんっちゅーんじゃっ!!!」

「何で、てめぇが父親面してんだ、洸?
昶にはなぁ・・・原作にもアニメにも未だに影も声も出てねぇ、幻の御両親が しっかり いらっしゃるんだよ。
身の程知らずの思い上がりも、そこまでいくと天晴れだな!」

(・・・それ『しっかり』いるって言うのかな・・・?)

声には出さないが、内心では疑問が尽きないマスター。

「もうさぁ、俺さぁ? 同じ事をしろって あん時の自分の迂闊な発言、悔やんでも悔やみきれないって言うのか・・・」

・・・肩を落とす洸。
何かもう ボロボロだった。

その様子に、流石の白銀も 何か悪い事したなって気になってくる。

「過ぎたことだよ、洸。もう、終わっちまったんだ。 ・・・飲まないか? 奢るぜ・・・?」

自分の行いもそれで片付けにかかる、白銀。

「・・・次は、こう簡単にはいかねぇからな・・・」

白銀の狙いは分かっていたが、疲れ切った洸は渋々席に着く。

もう、飲まなきゃ やってられません。
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