お話

□『良い朝』
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天井も床も、壁も視認できない程光が満ちていた。
つと、目を細める。
尤も。この部屋に満たされている光から、目がくらむ眩しさを感じたことは何故か ない。

その ただ真白な空間の、自分から見て真ん中辺りに。
周囲の白と 不思議と調和している『黒』が在った。

(良かった。今日も見つけられたよ・・・)

その『黒』を目印にして目を凝らすと見えてくるベッド。それと認識した途端にその存在を確かなモノに変えていく。

そうして やっと、洸は『彼』に会えるのだ。
『彼』を起こす事が、洸の朝一番の仕事だった。
認識すればあっと言う間の事なのだ。
だから、最初から『居る』と確信を持って此処に来ている洸にとって其れは、本当はそう難しい事ではない。
ただ、そうと分かっていても・・・

(毎朝不安になるんだよねぇ・・・)

どういう訳か、この真白な空間に『彼』の黒は容易く溶け込んでしまうから。

(そういえば、一度。『来た』ばかりの頃だっけ、焦ったなぁ・・・アレ)

『彼』がたまたま、白いシーツを頭まですっぽりと被って寝ていたのだ。そのせいで頼りにしていた目印が隠れてしまった。
『彼』を見つけられない洸は、仕方がないからその場から。部屋全体に届くように大声で呼び掛けたのだ。
正直なところ。今でもこの部屋の正確な広さは把握していない。
あの時。
洸の大声にモタモタと起きた『彼』は、ヨタヨタと洸に手を伸ばそうとしてベッドからベシャリと 落ちた。

「む・・・どうしたんだ・・・洸?」

ベッドの脇から、体丸ごとシーツに絡まって 何やらグシャグシャとした生き物と化した『彼』に。いかにも寝起きの声で、そう問い掛けられた時。

ひどく安堵したのと同時に、次からは絶対『彼』を見つけて、その上で優しく起こそうと決意した。
尤も、事情を聞いた『彼』が

「そうか、次からは気をつけよう」

と言った後、毎朝本当に部屋の真ん中辺りに『彼』の黒がしっかり見えている。そのため、今のところ 其の決意の活躍どころはない。

(てか、『気をつける』の一言で本当に無くなったもんな・・・)

寝相が改善されたのか、或いは・・・
この部屋も『彼』なのだろうか?
真白で何も無い、この部屋も。
見つけたベッドで穏やかに眠っている『彼』をじっと見つめ、洸は 否、 と思う。
何も無いことはない。

(俺が居る)

だから今日も そっと、しかし 出す声はハッキリと
『彼』を起こす。

此処に来て初めてもらった仕事だ。もう来てから大分経っている今でも、そしてこれからも、誰かに譲る気はない。
ましてや、目覚まし時計なんてガラクタ等は言語道断である。




朝一番に。この真白な部屋で、『彼』を見つけて


「おはよう劉黒。朝だよ!」












『良い朝だよ』
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