お話

□ファースト・コンタクト
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「ふむ・・・?」

首を傾げてみる。
後、もう一度・・と、『彼方側』の王は意識をぐるりと巡らせる。

「うーむ・・・?」

居ない。
だが、居るはずなのだ。彼の者は。

自分と同じ存在。
『此方側』の王。


生まれてからの幾星霜。

ヒトの形をとってからの幾星霜。

感じ続けてきた、 此方側とその王。




「もしや・・・名前か?」

『劉黒』 ずっと自分の存在意義と、害為す影達を狩ってきた自分にと、『影を殺す者』の意の名。
ヒトに倣って姿形をとってからまた、その名付けというのも倣ってみた。のだが、考えてみると・・・

「物騒・・・だ…!」

相手は何を隠そう、その影の王なのだ。


ヒトを意識し、その生活まで模す内に、何やら急速に一個の生命体として人間くさくなってきていた劉黒の顔から、血の気が引・・・いていた。とっくに。
その 非常に拙い事実による精神的ショック以前に、こちら側に来てからずっと調子が悪いのだ。

「一度・・・帰るか・・・」


個としての自分を意識するようになってから、いろんな発見があった。
個として限界が明確になる代わりに、感情が豊かになり、より 自分が世界の中に在るという感覚を味わえるようになった。

だから劉黒は昔よりも今が好きだった。
その好きという感情すら、今の自分に授かったものの一つなのだから。

だが、と劉黒は考える。

「寂しい・・・のだよな」

個としてどんなにヒトを模しても、その中には入っていけない。

自分は異質。

自分はただ、世界のバランスを保つため・・・

理解していた。 納得もしていた。
それでも 寂しい は消えないから。
それすらも、自分の愛しく興味深い感情の一部なら。

満たしてみては どうだろう?

「白と黒はシャーとかシェーとかしか言ってくれないし・・・」

ハクアもコクチも、会話能力はゼロに近い。発狂していない状態なら、最低限の意思疎通はできるのだが・・・

もはや、溜め息をつくことすら億劫に感じる程、劉黒の疲労はピークに達していた。

(諦めない内は・・・試合続行中だ)

そう考えながら、一時戦術的撤退だと帰り支度を始めた、その時だった。


「おい、お前」

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