お話

□絶え間ない雑音の中で
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声が

聞こえた気がした







大量の影分子が散っていく・・・しかし。

『gruaaaaaabu・・・!!』

「・・・っ!まだかっ!?」

どうやら、相当な量を抱えているらしい。コクチの吠える声が大音量で響いた。

「『シャー』ではないのだな・・・」

彼には珍しく軽口を叩きながら改めて大鎌を持ち直し、今一度同じ手法を試そうとした、その時。

ふと、視界が白く。それでいて暗く染まった。身体が重く動かないのに。軽く浮遊感を感じる。

それを眩暈だと理解するのと、そこから立ち直って戦闘に意識を戻すことに、三秒とかからなかった。

だが。

「・・・っ」

眼前に、先端が鋭利に尖った触手が迫っていた。
その後方からも新たに来ているのがわかる。

どの道、完全にかわしきるのは無理だと悟った劉黒は、軽く身をひねるだけに留め、そのまま前方に踏み込む。

多少の怪我を覚悟してコクチの首元に鎌をひねり込もうとする。

ひねり込もうとしたのだが、割り込んで来た凄まじい怒気の固まりに、思わず踏鞴を踏んで後退する。

それでも、そうしたところで やはり完全に自分の処理能力を超えた量とスピード、軌道で我が身を貫く筈だった触手の群は

神速の一刀の元、全て切り捨てられていた。

「し・・・ろ、 がね・・・」

自分を捉えるはずだった触手の全てを葬ったのは、影世界の王。劉黒の対、白銀だった。

彼は普段の怜悧な立ち姿からは想像できない程に白い髪を乱し。肩で大きく息をしている。

その彼が、クワッと此方を見やる。というか、睨んでくる。いっそ綺麗すぎるくらいの蒼い瞳で。

「劉黒・・・貴様・・・!」

低く、絞り出すようなかすれ声。

しかし何故かそれは、他のどの音よりも正確に劉黒の耳に届く。そして・・・

「白銀!後ろに触手の危ないっ!!」

劉黒は、コクチと対する時のそれとは、比べ物にならない恐怖心から。
兎に角相手の気を自分から逸らそうと、言葉を整理しないままに『貴方の背後に危険が迫っています』と指差しも加えて訴えた・・・が。

もしかしたら、コクチの方も恐かったのかも知れない。

当然の如く(いや、バッチリ当然なのだが)劉黒を置いて逃走を図る。

白銀も、今は とその後を追おうと跳躍姿勢に入ろうとするが・・・

「・・・無理か・・・速えな」

舌打ちまでしながらそう呟き、刀をしまう。

見ると既にあのコクチは遥か彼方に。またも驚異的速さで再生させた、触手と足を巧みに使って逃走を果たしていた。
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