お話

□その、涙が零れる懐かしさに…
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「・・・じゃ、改めて 御注文はお決まりかな。二人共?」

マスターが二人に尋ねた、その時。

カラン カラン・・・とバーのドアを 穏やかに 幼子を慈しむように 開けて入店を果たした客が 二名。

「完璧(パーフェクト)だね」

陶然とその音に聴き惚れるマスター。

「ん? まだ開店には少々早いかと思ったのだが・・・」

「あー、何か知った顔が二つ在るな」

劉黒と昶だった。

「まぁ良いか。取り敢えず・・・マスター、私にスタンリーのラムとドライジン抜き。昶にスクリュードライバーのウォッカ抜きを頼む」

「要するに、グレナデンシロップ入りのレモンジュースと普通のオレンジジュースだね。
直ぐ入れちゃうから、ちょっと待っててね」

適当な席に着きながら注文する劉黒と昶。

それを受けて用意を始めながら、マスターはカウンターの白銀と洸にも声をかける。

「それで、白銀。次の注文は決まったかな?
洸も奢りで飲むんだよね」

「あ、いや・・・あの・・・」

「良いの?」

「何が・・・かな?」

ちょっと可愛らしく首を傾げるマスター。

二人は揃って今入って来た『二人』を見やる。

目は見えないが、マスターもその気配を追って顔を向ける。

揃ってフワフワした頭の二人の方からは

「・・・んで、賢吾のバカがさ・・・」

…とか、

「・・・ふむ。そうだな、そんな時は・・・」

…と、 何やら昶の方から相談事を持ち掛けているらしい話し声が聞こえてくる。

そこへ更に、

「ほう。意外にも繁盛しておるではないか」

「やーん!『それなりに美味な酒が飲める店』ってここですかぁ? 焔緋様ぁっ。あっ 白銀様もいるぅー! ルル感激!!」

「御陰様で・・・ていうか、ちゃんとドアから入って来てよ!
本当。空間に穴開けるの好きだね、君」

呆れるマスター。

「ふっ」

肩をすくめる珍客。

「あっ 焔緋様? 肯定しましたねっ」

肘でつつく真似なんかしてみせるその連れ。



「・・・・・・・・・」

「・・・飲もうぜ、白銀。後、俺あっちの方に移るから。奢り、ありがとな」

何かを悟った洸はもう、何も言わず。それでも飲みやすそうな空間へ。

相談中らしい昶の為に、割り込むような事はしないが、それとなく自分の大事な王 一塊に近いスペースへ移動する。

「・・・・・・」

一人になった白銀は、暫くの間 沈思して、そして。

「私だって行きますよ!」

結局。二人は飲んで呑んで のみまくり。

酔っ払って劉黒に抱き付いて。

酔っ払いを装って昶に抱き付いて。

そのまま昶の『劉黒直伝、飛んじゃった子供のしつけ方(大鎌を用いた場合)』の試し斬り(?)になったのだった。

因みに、洸は

「嗚呼、何か懐かしいなぁ・・・泣きそうっ」

と終始、目尻が光る笑顔だった。

そして白銀も。

「・・・これは これで・・・!昶君・・・もっと!」

と終始、やっばい・・・やっぱり笑顔だった。

最後辺り。此方も酔ったルルが混ざって鞭を唸らせたが、どさくさに紛れてバックレた焔緋に代わり、ルルを回収しに来た澤木が頭を下げて事なきを得た。












此処は、界の狭間に在るかもしれない

バー 『えーじんぐ』




何でもアリっちゃー、

何でもアリです。
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