お話

□君を見る
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影が光を見たように

光も影を見ていた。


求めていたと

言っても良い









誰もが 自分に無い物を

望む。
















其れは、
ほわんほわん していた。

(色的には 固そうなのにな・・・)

黒いシーツが掛けられたベッドの他には、サイドテーブルに灯りが一つ。
それ以外にものらしい物が見えない。そもそも部屋の全体が把握出来ない、黒い室内。
部屋に満ちているのは
仮に灯りが無かったとしても、物を視ることには何故か不自由の無い。不思議な闇だった。
その中に居るのは
二つの世界の、対の王 二人。
白銀は、彼のベッドの上で ごろんごろん した後 クッションの一つに顔を埋めて動かなくなった劉黒の黒髪を、見るともなしに見ていた。
艶やかで長い其れは、劉黒の首に一筋も巻き付いていない。

(器用に転がったな)

白い衣を纏った劉黒は、しかしそれが理由ではないと示す様に。その漆黒の髪も含めた全身が、薄く発光している様に見える。

其れこそ。白い髪をしながら、この部屋の黒に溶け込む自分とは対照的だ。

光を纏っているのではない。彼自身が光を内包していた。

(要するに、此奴が『光』で其の王なんだよな)

彼を構成するものが光であり

彼が構成するものを光と呼ぶのだ


「・・・白銀、どうした?」

ふと、視線に気付いた劉黒がむっくり身を起こして、不思議そうに尋ねてくる。
そんなに見ていたのかと、白銀は自分の事ながら苦笑する。

「いや、『光』なんだなぁ・・・と思ってな」

隠す事でもないかと素直に白状する。
しかし。

「・・・?何がだ、白銀?」

理解出来なかったらしい。
はぁ、と一つ溜息が落ちた。

「お前に決まってる」

そう言ってやると、劉黒は え、と目を見張って
そして。

「・・・・・・・」

少し考え込んだ後、急に悲し気な顔になって しゅん という擬音が似合う動作で俯く。

(・・・・・?)

その反応を理解出来ない白銀が、どうしたと問い掛けようとした時。
劉黒はおもむろに立ち上がって『そろそろ帰る』と言い出した。

「ちょっと待て。急にどうした?」

白銀は、柄にもなく自分が焦っているのを感じた。

感じただけで、止められるわけでもなかったが・・・

そんな白銀を ちらりと見て劉黒が言ったのは

「私は白銀に嫌われたくない」

という、白銀には思いもよらなかった不可解な理由。

「・・・・・は?」

何故、そうなるのか。

「私は、光だって」

いや、だから・・・それで?

「光が近くに在ると困るだろう?」

「・・・・・え?」

嗚呼、此奴は何を言っているのか・・・

「光は 眩しい」

ふと、劉黒は その意識を部屋の外に向ける。
其処は夕闇を越えた、夜の世界。

「夜は穏やかだな」


私は 白銀が好きだよ


其の声は今までで一番柔らかい。
なのに、その顔は 笑顔なのに寂し気で

嗚呼 お前にそんなのは似合わない。

そう言おうとしたのだが。
劉黒はそのまま踵を返す。
相手が、そんな顔のまま あちら側へ帰ろうとしているのだと 理解した
その瞬間

「阿保か」

白銀は、その両腕でしっかりと自分の胸に 彼を閉じ込めた。












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