お話

□世界に零れ落ちた君
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あの子がお前ではないなんて事は解っている。

お前はあの日、世界に還っていった。

間違っても消えたのではない。

溶けたのだ。

解けたのだ。

融けてしまったのだ。


躰は粒になり

命が尽きて

魂もほどかれた。

遺されたのは

ある種の可能性。















最初は 正直、

期待もしていた。

何時か、

『お前』が また、

世界に浮かび上がって来るのではないかと。


けれど、分かってもいた。

其れは 無いと。

同じモノは一つとして無い。

失われたモノは、別のモノと置き換えられる。

喪われたモノは、二度と・・・



そして

とけてしまったお前の糸から、あの子が世界に紡がれた。

やっぱりお前ではない。

・・・まぁ、あの子を見つけ出した瞬間、結局のところ 自分が其れまで淡くとも、期待を捨て切れていなかったと、思い知った事はこの際忘れよう。

お前ではない存在、其れまで俺が、十把一絡げに見ていた中に生まれ落ちた、俺の 新たな対。

同じモノなんて無い。

あの子の中に、お前を感じる度に 思い知る事を繰り返す。

何度も。


そうだ、そんなモノは

無い・・・と。


だから、願う。

そんなに贅沢じゃない。
お前が居て、

あの子が居て、

俺が居る。

お前がはにかんで、

あの子がそっぽを向いて、

俺が笑う。

お前が要る。

あの子が要る。

其れを感じる 俺も要る。


そして偶に、

他の誰かが

会いに来るのも

良い。

それとも三人で、

誰かに

会いに行こうか?

生意気な 獣野郎に。

健気な 大型犬の様な少年に。

あの、勝ち気な少女に。



赤の歌舞伎頭だけは御免こうむるが・・・


其れだけの世界。

たった 其れだけ。



其処まで考えて、

夢想して、

気付いた。


何という 贅沢か。

完成された世界。

己の望みが全て揃った、
幸福な

其れだけで完結した世界。















誰もが

望んでいる。

己の夢の具現。


解っている。


焔緋は

其れを実行したのだ。




















忌々しい。

羨ましい。

糞餓鬼が・・・


人間が・・・







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