お話
□戯れの残月
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たとえばの話だ。
愛しい想い人から贈られた品というものは、もはや無条件で人の胸に多幸感を注ぎ込むのではないだろうか。
たとえばの話だ。
普段から己への敬慕の念を隠さない部下達からの、感謝等の意を込めた品というものもまた、上記とは別種の温かみを届けてくれるというのが一般的見解だろう。
たとえばの話だ。
では、
常日頃からうざったい程に纏わりついて来る部下の部下が手ずから作った愛しい想い人を象った品、というものは、どうなのか。
念の為くり返すが、あくまで『愛しい想い人を象った品』である。
己の愛しい人が訪ねて来てくれるというのでなければ、その人の手作りの品というわけでもない。
しかも菓子である。
(食えってか)
加えて等身大だったりする。
(食えってか)
ついでに言うと寝ている間に届けられていた。
(食えってか、コレを)
寝室に。
(いや、いや、いやねぇわ)
そして、細部まで実に忠実に再現された『愛しい人の等身大チョコレート菓子(ホワイト)』は、恐らく相手が就寝中に『型取り』を行ったのだろう。
目の前にしどけなく横たわる体の彼の想い人は、明らかな苦悶の表情で白く固まっていた。
漂う甘ったるい独特の匂いが、逆に憐憫を誘う。
せめて、これがいとけない健やかな寝顔で仕上がっていたならまだ、観賞用に保存、という選択肢も無きにしも非ずだったかもしれないのだが。
無駄に完成度の高い出来映えと、他ならぬ己の大切な『対』である劉黒を象っているという事実に負け、制作者へ突き返すなり廃棄処分するなりといった機を逸してい久しい白銀は、もはや幾度目とも知れない溜め息をまた一つ、深く深く、吐いた。
(てか、起きろよ、劉黒)
全身を引き伸ばしたコクチに隙間なく包まれ、息も出来ない時間を短いとは言え挟んだ上で、そのまま寝続けたのだろう己の対の逞しさを思うと、目頭が熱くなる白銀だった。