一冊目
□リクエスト16*黎様へ
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「劉黒、耳掃除してあげるよ!」
「ん、ありがとう、洸」
そう言って犬の膝に頭を載っけるアイツ。
「・・てかな・・?」
「何ー?」
「ん、何だ、白銀?」
「此処でする必要あんのか・・?」
此処は俺の部屋だ。
紛う方なき俺の部屋だ。
それを、此奴等は理解しているのだろうか?
「嫌だなー・・判んないの?」
「・・・判らない」
答えたのは劉黒だ。
判んねぇのかよ・・・
すると、犬が劉黒の頭を膝に載せたまま、胸を反らしてほざきやがった。
「勿論、白銀に俺と劉黒の仲睦まじい姿を見せ付ける為さ!!」
言い終わる直前から、犬は素早く頭を下げて 俺の横薙の刀を回避する。
相変わらず反応 良いな・・・てか・・っ!
「おいっ!顔近いぞ、顔っ!!」
犬は犬畜生の分際で、横になっている俺の対の顔スレスレまで頭を下げていやがる。
「いやぁ、危なかった 危なかった・・ん、何かな、白銀さん?」
「・・白銀、本当に危なかったぞ?」
空惚け、満面の笑みを此方に向けて問い掛けてくる犬と、ぱちくりと瞼を開け閉めして紅を見せたり見せなかったりする俺の対。
「・・うっせぇ・・っ」
ムカつく・・本当にムカつく・・っ!!
それが一昨日の事。
「白銀、白銀!」
劉黒がまた突然に訪ねて来やがった。
今度は一人で来たらしい。
その手に何か・・耳掻きか?
劉黒は、耳掻きを持った手とは別の手を振って俺を呼んだ。
「耳掃除をさせてくれ!」
何故か アイツは緊張した様に、しかし浮ついた様子でそんな事を言う。
「・・別に、構わねぇが・・」
特に用も無く暇だった為、本心からそう答えてやる。
すると、僅かに見えていた緊張を吹き飛ばし、劉黒は紅い瞳を輝かせてこう続けた。
「ありがとう! 安心しろ、
鼓膜は破らない!!」
力強い、頼もしい限りの台詞だったというのに、聞いた途端に押し寄せた此の不安は一体・・?
「・・宜しく頼む」
不安と疑念と、僅かな後悔と共に、俺は劉黒の膝に頭を載せた。
結果を言えば、俺の鼓膜が破られる事は無かった、念の為。
何故 急に、俺の耳の掃除などしたくなったのか・・
後になって訊いてみると、アイツは てれてれしながら こう答えた。
「洸が言ったんだ、誰でも耳掃除を任せられるのは、本当に信頼している相手だけだ と・・
確かに其の通りかも知れない・・・そう思ったら、私は白銀に信じてもらえているのだろうかと気になって・・確かめたくなったんだ」
だったら最初からそう言えよ。
「そんな事をしたら、相手に気を使わせてしまうだろう?」
ああ、そうか・・相手が知らない内にしか出来ないんだな・・・
そうか・・・・・
「・・という訳で、耳カキカキしましょう、昶君!!」
「いやいやいやっ!?
待て待て待てっ!!
『という訳で』って、俺 何も聞いてねぇだろうが!!
何でいきなり耳掃除なんだよっ!?」
「気にしないで下さいっ。昶君はただ私の膝枕でくつろいでいてくれれば良いんです!!
大丈夫です!
鼓膜 破りませんから!!!」
「嫌だ」
「昶君―――っ!?」
「だから何で泣く!?
明らかに異常な其の意気込みが怖ぇんだよ!!」
ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん二人で騒ぐ。
此の、愛の報われない時間さえ愛しいのは、きっと此の愛が本物だから。
―――きっと相手がアナタだから―――――
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