一冊目
□リクエスト:4800hit*更紗様へ。
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其処はアンタのお気に入りの場所だった。
だから、一緒に通った俺にとっても、特別な場所だったんだよ。
暖かな日射しも、沢山の笑い声も、閑散とした寂しげな空気も、総てを包み込める場所。はっきりと言ってしまえば、コレと言った特徴の無い、ともすれば淡く忘れてしまいそうな場所。
でもだから、自分と相手が良く見えるから とアンタは笑みを零した。
今日も『今日』が深々と過ぎる。だから俺は時間を惜しむ。何度も思い出す。此の記憶が薄れぬ様に。アンタの笑顔が遠くならぬ様。痛みさえ、手放す事が恐ろしい。
散って遠ざかる記憶の軌跡は美しく、優しい。
それでも素直に見送れない俺をアンタはどう思うだろう。
何でもない日に、何でもない場所で、あの子と笑った時、『嗚呼、似ている』と思ったんだ。あの場所だと思ったんだ。
懐かしい場所。
だから思い知った。
改めて理解した。
何でもない場所だったと。
知っていた筈なのに驚いた。こんなにもありきたりで、何でもない場所だったのだと。
アンタと俺が居て、誰かが共に在って初めて俺にとっての特別であったのだと。
特別でも何でもない場所だった。
気付いてしまえば、何時だろうと、何処であろうと、アンタと過ごした場所だった。
アンタが好んだ場所だった。
誰かがいる。
俺の隣にあの子がいる。
雪の舞う中、あの子と笑い合ってやっと理解した。
誓います。
あの頃とて蔑ろにしていたつもりはありませんが、今、改めて此処に、あなたの笑顔を懐かしみながら、縋る事無くあの子と共に在る事を。
其の日々の繰り返しを守り続ける事を。
貴方の笑顔は何処にでもあり得たのだと理解したのです。
――― 零れ落ちたのは ――――