モノクロ
□02:裏と表と
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椅子に座ったまま、虚ろな瞳でただ目の前をじっと見つめる少年。
クレントによって彼の体のあちこちに巻かれていた真っ白な包帯も必要なくなってきた頃。
クレントはハサミを片手に、少年の目の前でひらひらと手を振る。
「妖精ちゃーん、もう動いてもいいぞ」
昨日の雪もすっかり溶けきり、少しずつ真昼のあたたかさを太陽が運んでくる。
クレントは笑顔で青い少年の髪を払うと、鏡を目の前に差し出した。
「どうだ? 上手く切れただろ?」
鏡に映った少年はいつものように生気のない、無表情。
だが、いつもは長い髪の下に隠れていた青く大きな目が見えている。
床に散らばった青い髪は、絹糸のように窓から入る光に応えるかのようにきらめく。
少年は短くなった髪を自らの手で確認するでもなく、ただじっと目の前を見つめるだけ。
「朝っぱら何してんだ」
ため息をついたクレントの真後ろから、リトがコーヒーを片手に呟いた。
「見てみろよ、エクスシアちゃん。可愛くなったろ?」
満面の笑みで、嬉しそうに少年――エクスシアを見せびらかすクレントの言葉に、リトの表情は一瞬険しくなる。
エクスシア、おそらく天使の名前から取ったのだろう。
嘲笑するリトは、一言。
「早速名前付けて飼うつもりか」
「別に飼わねえよ、ただ名前が無いのも面倒だからな」
ふーん、とクレントの話には興味なさ気に答えると、新聞を手にした。
「放っておけばいいだろう」
「そういう訳にはいかないんだよね」
エクスシアの細い手首を覆うように掴み、袖をずらす。
「死んじゃうかもしれないって事。立っているのもやっとだったのに」
クレントは唸りながらパンをちぎって少年――エクスシアの口元に運んだ。
「お前が死んだら困るんだよね、口開けよな」
「病院にでも連れて行ったらどうだ」
「この子は純粋な人間じゃないからなぁ、それこそ問題になるよ。いや、確かリリーの兄貴が医者だって……あれ、それはローナだっけな」
小声で次々と女性の名を口にするクレントの声を、新聞を開く音が掻き消した。
「またチェックしてんの? リトちゃん心配性だねえ」
新聞をテーブルに広げて次々とページをめくって行くリトの姿を見てクレントは笑う。開いた新聞の面の上半分が、脱獄した死刑囚三人の不可解な死について知らせていた。
「昨日の奴らだろ? 俺がいながらまだ息のある奴を見逃すなんてヘマする訳ねえじゃん」
「女に現を抜かしてるような奴に言われたくないな」
「……またそういう冷たい事言う。だって仕方ないじゃん、向こうから寄って来るんだからさ。俺は女の子の気持ちは無下に出来ない主義なの」
にこりと笑ってみせるとテーブルに着いたリトの隣に寄る。
「リトちゃんも何ならどう? 今日は俺と二人っきりで町でもぶらついてみる?」